「源田君のこと、今日からげんげんって呼ぶから。いかなる場合も異論はみとめられません」

「…ん?べつにいいぞ」

「え?…あ、そう」

「当たり前だ」

「…じゃあ、げんごろうって呼ぶね」

「あぁ、構わない」

「あ…そう…」

「もちろんだ」

「…やっぱ、さなだむしって呼ぶよ」

「ん、分かった」


なんでこの人はこうなのかな。どう呼ばれても否定しないなんて、自分に興味が無いのかな。それとも私に興味がないのかな。もしかしたら、私がこんな風に君に話し掛けても、君はなんとも思ってなくて、愚民のざれ言程度にしか受け取ってもらえてないのかもしれない。それもそうだよねだってげんおうだしキングオブゴールキーパーだし王様だし。さっきの会話だって聞こえてるかどうかすら怪しい。適当に相槌打っていただけなんだよ、きっと。…そんな私の考えを遮ったのは彼自身。気がつけば、彼の顔が目の前にあった。目と鼻の先とはよく言ったものだ。まさにその通り、源田君の吐息が鼻にかかるほどだった。


「どうした?」

「………別に」

「そうか。そのわりに怖い顔をして考え込んでいた」

「源田君には関係ないでしょ」

「…ふ、そうかもな」

「えぇ、そうです」

「ところで…」

「…なに?」

「真田虫じゃなくなったのか?」

「…え」


ちゃんと話、聞いてたんだ…。少しだけ嬉しかった。本当に少しだけだったけど。彼は笑いながら私の頭に手を置いた。


「俺はなんて呼ばれたっていいからな」





お前が呼んでくれるだけで。





嬉しいから。




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