「試合勝ったんだね、おめでとう」

「…あぁ、ありがとう」


ユニフォームから制服に着替える彼は、私に構わず服を脱ぎだした。それを私は壁を背にして見つめる。別に変な気があるわけでなく、私にとっての彼と、彼にとっての私は親友みたいな存在だから。お互いにそういうところは気にしていなかった。


「今回も俺の出る幕はなかったな…」


ふ…と笑いを含んだ声で彼は言った。その言葉が皮肉ではないことは知っている。それはきっと喜び。彼は自身に役目が回らないことをせつに祈り、ボールに触れずに試合を終えることを望んでいる。サッカーなどの球技はボールを奪ってなんぼの世界では無いのだろうか、いつも疑問に思っていた。


「…それって、つまらなくないの?」

「どうかな。少なくとも、俺はそんなことは決してないけど」

「…どうして?」


難しいことを聞くんだな、彼は小さく苦笑いをした。そんな彼の、あらわになった上半身は傷だらけで。いつもながらに痛そうだった。それこそサッカーなんか辞めてしまえと、何度言ったことか。そのたびに、俺に死ねといっているのか?そう笑われるのだった。





−そんな会話をしたのはつい昨日だった気がする。





今の私は病室の前で立ちすくみ、震える手を抑えていた。怖くて怖くて。彼の優しい笑顔を思い出すたび、苦しくなった。


「こうじろ…?」


そろりと病室に入ると、彼はよぉ、と身振りを添えて挨拶をしてきた。痛々しいまでの包帯に、胸が締め付けられる思いがする。


「大丈夫?」

「あぁ」

「痛い?」

「痛い。でも平気だ」


彼は私の頭をくしゃくしゃと撫で回し、にこりと笑った。そんな顔しないでくれ、そう呟きながら。だけどそんなこと言われても、そんな顔する他はない。心配したなんていう次元の話ではないのだ。


「死んだと、思った」

「はは、縁起の悪いことを言うな」

「本当だからね…」


私はどんな顔をしていたのだろう。彼はハッとしたように真面目な顔付きになった。よく見たらいつもの顔のラインが無いや。変なの。そういってやりたかったのに。視界がぼやけてしまっていた。


「俺の為に泣くのはやめてくれ」





本当に護りたいものは。





お前の笑顔なのだから。




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