君は今日も来るのかな。それとも来ないのかな。柄にもなく、そわそわして。だけどそれを表に出すほど、器用な人間じゃあないし。黙って裏門に寄り掛かって、何事もないかのように振る舞う。あーなんて素直じゃない。ただそんな俺も、なぜか君には敏感で。視界の端に君を捉えたとき、心臓がどきりとして、つい目を逸らしてしまった。


「なんだ、豪炎寺くんじゃないか。何してるんだい、こんなとこで」

「………べつに」


ボソッと呟くと、彼女は笑った。そういうと思った、ってな。俺がゆっくりと歩を進めると、彼女もそれに従った。髪の揺れ具合とか、スカートの揺れる様子、睫毛の先までも。全てがふわふわしていて、抱きしめたらぬいぐるみみたいに柔らかいのかななんて考えた。だけどやっぱり、それを行動に移すほど俺は勇気のある人間じゃあないし。楽しそうに話す彼女のことを静かに横目で見ていた。


「…で、君は何処へ行くんだい?今日も病院へ行くのかい?」

「あぁ」

「へぇ、毎日熱心だね。誰か入院でもしているのか、それとも気になるひとがいるのか」

「妹が入院してる」

「妹さん?それはお大事に。まいったな、不謹慎なことをいってしまった。すまないね」


俺がふるふると否定すると、彼女は今度お見舞いに行くね、と申し訳なさそうに言った。あぁだったら夕香に紹介しておかないとな。でも毎日話題に出してるから、もう知ってるかな。どうだろう。…なんて、変に気が急いて、俯く彼女に意図せず話しかけてしまった。


「…あ、あんたも毎日あそこに行くよな。なにかあるのか?」

「うん、あるよ」

「例えば…なんだ」


すると彼女はこう言った。その言葉を聞いたとき、心臓が止まったような気がして。あぁ俺はなんて自分勝手な人間だったんだろうと、悲しくなった。さっきまで思っていたことも心の奥に消え去り、深い喪失感に襲われることになる。





私の大事な人が入院してるんだよ。





今なら一思いに死ねると思った。




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