「…っ!お前、まさかまた…」


俺は彼女の肩を掴み、振り返らせた。その目は虚ろで、まるで生気が無い。頬は真っ赤に腫れ、四肢には青い痣が見えて。ぼーっと佇む彼女を、俺が揺さぶってやっと焦点があった。どうしたの、幸次郎。そんなふうに口から零すように話す彼女を、ぎゅっと抱きしめた。そうしたら、痛いよと小さく呟くのが聞こえてきたから、もっと痛い思いしてきたんだろ…!って、もっともっと抱きしめた。


「お前が総帥の部屋の方から歩いてくるのが見えたから、まさかとは思ったが…。なんでお前は俺の言うことを聞かないで、独りで総帥に会いに行ったりするんだ。よせといっただろう。…お前はサッカー部のマネージャーであって、総帥の奴隷ではないんだ。素直にいうことをきくなんてしなくていい、分かるな?」

「…どうして?」


彼女が俺に向けた目が、睨んでいるようにも見えて。緩めた俺の腕から、彼女はするりと抜け出した。そのままぱしぱしと服のシワを直し、ぽつりと話し出す。


「…なぜ、あの人の言うことは聞いてはいけないの?」

「なに…」

「なのになぜ、君の言うことは聞かなくてはならない?その差はなにを基準にしているの?」

「それは、お前が…」

「なら、君があの人の苦しみを受け入れられるとでもいうのかい?残念だけど、この痛みは君に受け入れられるほど軽くはない」

「そんなこと、やってみなくては…」

「わかるよ。君はよわっちいから。そしてとても優しいから」


彼女は俺の目を見つめ、潤んだ瞳で笑った。…なんて俺は無力なんだ。こんなにも健気な少女。その肢体を傷付ける男に牙を剥くこともできず、ただ彼女を無理矢理抱きしめて捕らえるしかできないのだ。彼女は己の体を蝕む痣や血に、何を感じているのだろう。振り下ろされる拳や鞭に、何を思っているのだろう。















俺は考えた。

















嫌がる彼女の手を引いて、部屋に連れ込んだ。そのままベッドに投げ込むと、低い呻き声と咳が聞こえた。背中を打ったのか、涙目で苦しそうに呼吸をしている。そんな彼女の上に覆いかぶさり、自由を奪う。彼女は涙を流すばかりだった。可哀相に。総帥にもそんな姿を見せたのだろうか。俺はお前を救いたいと思った。





君がそんなにも痛みを求めるのならば、俺が与えるしかないのだろうか。





否定する彼女の白い頬に、俺は右手を打ち付けた。




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