真田はキスが下手だ。
付き合ってもう長いのに今だにキスする前には深呼吸するし、いざ目を瞑って待っていても唇に触れるまでが長い。俺はいつでも準備できていて真田からのキスを待っているのに下手に焦らされたらこっちまで気恥ずかしくなってしまう。もう、男なんだから腹をくくれよ!腹を!
「真田はさ、俺とキスしたいの?それともしたくないの?どっちなの!」
「い、いや…幸村…」
「はっきりしろよ、男だろ!」
毎回毎回焦らしやがって!キスの時だけじゃない。セックスする時だってそうだ。誘うのだっていつも俺だし、たまーに真田から誘ってきたと思ったらシャツのボタンに手をかけるまでに1分、シャツのボタンを外し終わるまでにさらに5分はかかる。どんだけヘタレなんだよ。普段テニスをする時は威厳のあるかっこいい真田と変わらないのに、恋人モードの真田は一変してヘタレくんに大変身だ。それはそれでいいかもしれないけど、健全な中学男子が焦らされて嬉しいわけがない。そりゃあ焦らされて燃える人もいるかもしれないけど、俺にそんな属性はない。
「俺からキスしてもいい?」
「なっ!?あ、ああ」「何でそんなにびっくりするの」
「い、いや、接吻は男からするものだろう」
「考え方が古いなぁ、真田は」
「そんな事はない!」
「ていうか、俺も男なんだけど」
「む…」
「だからどっちからキスしても同じだよ」
「しかし…」
「真田はキスに持っていくの下手だからね」
「む、」
本当に下手。ド下手。ロマンチックの欠片もない。雰囲気ぶち壊し。そんな少しヘタレな恋人なんだけど俺は何故かゾッコンなんだよなあ、真田弦一郎に。だって真田とキスするのもそれ以上をするのも嫌じゃないから。幸せなんだ。
「でも真田のキスは甘くて好きだよ」
俺がそう言ったら、真田が顔を赤くして目を伏せた。
あいまいあまい