「何て書いたのか当ててみて」


男二人が寝るのには些か小さめのベットで、事後の快楽の余韻と激しい疲労も一段落し、すっかり眠気も覚めてしまった幸村が、隣で寝ている真田の背中に言った。真田は早く寝らんか、と幸村の方に寝返りを打って振り向こうと思ったが幸村がこっち向いちゃダメだよ背中に書けないじゃないか、と両手で真田の背中を押して真田が寝返りするのを防いだ。真田がかけていたシーツを背中が出る程度にめくり、形のよい肩甲骨の縁を人差し指でなぞる。ビクリ、と少し反応した真田が血相を変えて勢いよく振り向き、眉間に皺を寄せながらこちらを見てきたので幸村はふふふ、と笑って誤魔化す事にした。


「…寝ないのか?」
「寝れなくなっちゃってさ」


そうか、と真田が返事をして、さり気なく幸村にめくられたシーツをかけ直そうとしたが、それも幸村に見つかり再びシーツをめくられてしまった。


「真田は眠くないの?」
「お前が騒がしいから目が覚めた」
「ふふ、ごめんごめん」


幸村は悪気がない事を主張するように微笑みながら真田に謝ると、そのまま真田の方に一度だけ寝返りをうって真田の目の前までやってきた。先程まで二人の間にあった睡眠をとる為に確保していた距離が縮まり、幸村が手を伸ばさなくても真田に触れる事ができる位置になった。幸村は真田に再度何て書いたのか当ててみて、と言うと真田が自分の方に背中を向けるように促した。真田はしぶしぶ了解すると、幸村に背中を向けた。


「じゃあ、一文字目」


幸村はそう言うと、細い指で真田の背中に、まるで得意の絵を描くように文字を書いた。


「何て書いたかわかった?」


背中から幸村の指が離れたかと思うと、後ろから幸村が聞いてくる。真田は背中に神経を集中させていたが、幸村が自分の背中に何と書いたのかわからなかったので、仕方なしに幸村に何と書かれたかわからないと言う旨を伝えると、じゃあもう一回書くね、と言う幸村の返事の後に再び背中に幸村の指先の感触が伝わった。


「………“さ”で合っているか?」
「そうそう、一文字目せいかーい」


そう言って幸村は二文字目、三文字目と真田の背中に書いていった。


「はい、何て書いたでしょう」
「俺の名前、で、合っているか…?」
「正解、真田って平仮名で書いたよ」
「これはなかなか集中力を使うな」
「今のはウォーミングアップだよ」
「ほほう、望むところだ」
「今度は一文字ずつ切らないで続けて書くからね」


先程より少し乗り気になった真田の背中に幸村は再び文字を書き始めた。真田はどうやら背中の文字を当てる事で集中力か何かを養おうとしているらしい。本当にいつでもテニスの事に関しては余念がないんだから、と幸村は半分の感心と半分の呆れを覚えつつ、真田の背中に指を這わせた。


「さなだだいす……!?」
「じゃあ、真田はその答えに対する返事を俺の背中に書いてね」


それだけ言って、幸村はぐるりと反転すると真田に背中を向けた。背中が出るようにシーツを腰の辺りまでめくり、白くて細身の背中を露わにさせた。その何とも色気のある背中を見た真田は、行為の後で、もう何度も見ている幸村の背中だというのに思わず赤面しそうになった。いや、自分に見えないだけで赤面していたのかもしれない。ただ確実に心拍数は上がっていた。その中で唯一救いだったのは、幸村は背中を真田に向けている為にこちらを見ていないと言うことだ。


「…………まだ?」
「あ、ああ!今書く!」


幸村に催促されて真田が慌てて返事を返す。生唾を飲み込んでから意を決したように真田が幸村の背中に指先で触れ、一文字ずつゆっくりと文字を書いていく。文字を大きく書いてしまう為、時折 指先が脇腹の辺りを這うと、くすぐったいのか、幸村が体をよじる。


「……何と書いたか分かったか?」
「“あいしてる”でしょ?」
「ああ」
「残ればいいのにな」
「何がだ」
「真田が書いた愛が消えずに背中に残っていればいいのに」
「そんな物いつでも書いてやる」
「いつも書いてたら愛が減っちゃうだろ」
「減るわけないだろう」
「時々がいいんだよ。一気にたくさんな感じがするだろ」
「そんなものか」
「そんなものだよ」


そうか、と渋々納得したような真田に目一杯近づいて幸村はシーツを被った。もぞもぞとベットの中で触れ合っていると、忘れていた眠気が少しずつ蘇ってくる。次第に眠そうな顔になった幸村を真田が優しく抱き込むと、幸村の頭の下に自分の腕をしいた。手、痺れちゃうよ、と眠そうな声色で幸村が言うと、気にするなというように真田が幸村の頭をそっと撫でた。


「俺さ…、」
「何だ」
「真田の背中も好きだけど、お腹も好きだよ」


そう言って、ぺちぺちと真田の胸から腹部を幸村が軽く叩く。心底幸村が可愛いとか、愛しいとか、そんな事を思いながら幸村のされるがままになる事も悪くないなと真田は密かに思った。そうしているうちに幸村が眠ってしまったので、真田はしばらく幸村の寝顔を眺めていた。愛が消えなければいい、と言った幸村の言葉を思い出して真田は眠ってしまった幸村の耳元で、愛が消えてしまわないように再び愛を囁くのだった。


愛を背中にかく
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