▼ 仁王と幸村

「ゆきむらー」
「何、仁王?」

今日は珍しく最後に部室に残ったのは、仁王と幸村だった。幸村は部誌に黙々とペンを走らせている。その横で既に着替え終わっている仁王が幸村の走らせるペン先をジッと見つめていた。しなやかな指に握られたシャープペンが綺麗な文字を一字一字生み出していって、次第に部誌が黒く埋まっていく。

「まだ書き終わらんの?」
「んー、もうちょっとかな」
「大変やのー」
「そんな事もないよ。仁王は先に帰っていいよ?俺が鍵閉めておくから」
「いんや、待っとく」
「今日はどうしたの?」
「今日はお前さんとおりたい気分なんじゃ」
「ふふ、なにそれ」
「さぁ、自分にもわからん」

ペンを握った手を薄い唇に当てて、クスクスと笑う幸村を仁王はさり気なく横目でガン見する。幸村は見てて飽きない。というか、見とれてしまう。テニスをする姿は勿論凛としていて素晴らしい。でも、女顔でゆるふわウェーブの綺麗な髪で、清楚で指も細くて綺麗な幸村に仁王はつい見とれてしまうのだった。今もそうだ。隣に座って部誌を書く幸村の、白くて綺麗な横顔をこんなに近くで見ている。見れば見るほど綺麗だなと思った。

「のう、幸村」
「今度は何?」
「幸村って、肌綺麗じゃの」
「ふふ、ありがとう」
「女みたいに綺麗じゃ」
「残念だけど男なんだよね」
「お前さんが女なら、手ぇ出しとったかもしれん」
「ははは」

そんな本音を冗談混じりにポロリと零してみたが、幸村には冗談にしか聞こえておらんじゃろ。他愛もない会話をしているうちに、幸村が部誌を書き終えて着替えも終わらせた。幸村が着替えをしている時も、密かに幸村の素肌が見えないかさり気なく見ていた。まぁ、何も見えなかったがのう。

「お待たせ、帰ろうか」
「そうじゃのう」
「………仁王、」
「何じゃ?」
「あれ…、本当?」
「あれ?」
「…俺が女じゃなきゃ手は出さない?」
「え…それってどうゆう…」
「…男の俺はダメなの?」

一瞬、幸村の言った一言がどのような意味を持つのか、仁王がそれを飲み込んで理解するにはもう数十秒かかるようだ。



(純白の誘惑)




20111219∇21:05


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