恋物語カプリ島編 | ナノ


ランプブラック クラクション 1


ランプブラック クラクション








 顔を殴られて目を覚ました。

 うっすらと瞼を開けると、もう2、3発殴られ、完全に覚醒する。

 周りをキョロキョロと見回すと、薄汚れた8畳ほどの部屋だった。ユキが目を開けたことに気付いた男は、殴る手を止める。

 無理矢理引っ張り起こされて、ユキは気絶する前のことを思い出した。



 捕まってしまった…。



 体が異常に重かったし頬がびりびりと痛んだが、幸い頭は正常に働いた。

 捕まったということは、ここは【物置】なのだろうか。

 一瞬カッペッレェリーアの前に引き出されるのかと思ったが、それにしては全く拘束されていない。

 あれだけ旅行中監視されて、ボンゴレだとバレていないなんてことがあるのだろうか。


『…い、おい。アリーチェ』


 思考を巡らせていると、目の前に丸い何かがつき出された。

 驚いて顔を上げると、武骨な男が憮然とした表情を浮かべて見下ろしていた。

 つき出されたものが何かを確認する前に、ユキは男が呼んだ名前に驚いた。


 この男は今、自分をアリーチェと呼ばなかったか。


『さっさと食え。食ったら水を浴びて部屋に戻すからな』


 男の、顔見知りを相手にしているかのような声音に確信する。どうやら逃げ出したアリーチェと勘違いされて捕まったらしい。

 渡されたのは丸いパンだった。

 びっくりするほど硬いそれを、爪を立てて千切って食べる。

 アリーチェだと思われているなら、毒は入っていないだろう。

 たしかにアリーチェはアジア系の顔立ちで、会ったのが夜だったので不確かだが髪も茶色かったような気がする。

 アジア系の人間の顔など、皆同じに見えるのかもしれない。


 喉がからからに乾いていたので何度か詰まらせそうになりながらも、パンを飲み下す。

 味はほとんどしなかったが、食べることが体力回復への近道だ。



 食べ終わると、片足に鎖がつけられて外に連れて行かれる。

 不自然に思われない程度に周りを見て、できるだけ記憶に刻みつけた。

 男の話では、ユキは丸一日眠っていたらしい。

 疲れ切っていたのだから当然といえば当然だが、これには焦った。

 だが見張りの男は完全にユキのことをアリーチェだと思っているらしく、ドレスは調べなかったようで、中に仕込んだナイフも隠してあったリングも無事だった。



 ジョットはどうなっただろう。裏切り者のビルボファミリーのNo.3は?アリーチェは見つかってはいないようだが無事だろうか。



 気になることが一気に溢れ出たが、目の前の男に訊くわけにもいかず、ユキは黙っていた。





 【物置】の中には見張りはいなかったが、外に出ると数人の見張りがいた。

 気合を入れて見張りをしているという雰囲気ではなかったが、数が意外と多かった。

 裏にまわると、井戸があった。外に出た時点である程度予想していたが、さすがにげんなりする。

 井戸から水をくみ上げてから後ろに立っている男をじっと見ると、けっと吐き捨てて鎖の長さの限界まで下がり、背を向けた。



 意外と紳士だ。