恋物語カプリ島編 | ナノ


エバーグリーン プロミス


エバーグリーン プロミス








 ジョットはひたすら駆けた。

 炎を噴出し、直感の導くままに疾走した。

 森の入り口に集まっていた敵を一点突破し、森に入る。

 炎を消し、自分の足で走り出すととてつもない疲労が襲ってきた。

 街からフルパワーで炎を噴出して飛んだ所為で、だいぶ力を使ってしまった。

 だが、直感のまま進んできたのは正しかった。



 こちらに向かって走ってくる、ユキの姿が闇夜にあった。





『ジョット!』


 まっすぐに胸に飛び込んできたユキを、ジョットは抱き締める。

 柔らかく細い体の感触を感じ、どっと安堵する気持ちが押し寄せた。


 生きていてくれた。


 森の中を駆けた所為かあちこち汚れていたが、大きな怪我はなさそうに見えてほっとする。

 ジョットは自分の胸に顔を押し付けて小刻みに震えるユキの頭を落ち着かせるように撫でる。

 
 最初は襲撃されたことによる恐怖で震えているのかと思ったが、違った。

 くぐもった泣き声を上げるユキから微かに聞こえた言葉に、ジョットは息を呑んだ。


(ランボルギーニ…)


 ジョットは唇を噛んでユキを抱き締める手に力を込めた。

 別荘がある方向を見ると、木々の隙間から赤々と燃える炎が見えた。

 人海戦術にもほどがある。

 少数しかいない相手に、これほどの数の人間を投入してくるとは思わなかった。

 警備に置いていた部下が、何人生き残っているか…



 ユキは20秒、静かに涙を流すと、ジョットの背中に回した手をきゅっと握り顔を上げた。

 涙の流れた痕が残っているが、マホガニーの瞳は強い光を取り戻していた。

 その瞳にジョットは圧倒された。

 恐怖もあるだろう。悲しみも、怒りもあるだろうに。

 ユキは20秒で、それを心の奥に仕舞い込んだ。


(本当に、こいつは…)


 ジョットはユキの背中を一つ叩くと、木が密集している場所まで移動するよう促す。

 木の陰に隠れると、ジョットは目をこらし、耳を澄ませた。

 ジョットが通ってきた、街から森へ入る道のりだけで相当な人数がいた。

 別荘に襲撃してきた部隊の人数のことも考えると、ここが見つかるのも時間の問題だ。

 ジョットはユキの肩を掴み、その目を覗き込む。


『ユキ。俺が奴らの前に出て引き付けるからその間に逃げろ。基地ユニットの位置はわかっているな?』

『そんな!一緒に基地に行けばいいじゃない!』

『相手の数が多すぎる。情けない話だが、ここまでくるのにかなり力を使ってしまった。2人一緒に基地に辿り着くのは無理だ』


 ユキははっと目を瞬かせた。

 それを見たジョットは自分の失言に気づいたが、すでに遅かった。ユキの顔が苦しげに歪む。


『私を…助けに来てくれたから?』

『気にするな。お前だけを逃がすには理由がある。俺は奴らを引き付けて逃げる。捕まるかもしれないが、そうなっても殺されることはない。だがお前は…殺されなかったとしても捕まっている女達と共にフランスに売られる可能性がある』


 売られるという言葉に、ユキの瞳が揺れた。

 売春業を生業としている奴らが、女をどう扱うかくらいはジョットもわかっている。

 ジョットは頭の中に浮かんだ想像を振り払うように言葉を続ける。