ブロンズ バッド バット 1
ブロンズ バッド バット
夕方、別荘の玄関でユキはジョットとGを見送ろうとしていた。
『本当に夕食食べていかないの?』
残念そうに言うユキの頭に、Gはぽんと手を乗せる。
カプリ島の中心地にあるクラブへジョットと共に行くつもりなのだ。女人禁制であるため、ユキは連れて行けない。
『俺が長居するといろいろ面倒だからな。少し調べものをしてそのまま戻るぜ』
『ん…わかった。皆によろしくね』
微笑むユキに頷いて、Gはジョットと共に馬車に乗り込む。
二頭の馬が動き出し、手を振るユキの姿が見えなくなるまで進んでから、Gは隣に座る幼馴染の方を向いて問いかける。
『で、昼はどこまで話したんだったか?』
『……』
『あぁそうだ。中途半端すぎる告白をかました上、初日は押し倒して怖がらせたんだっけか?』
『お前…わざと言ってるだろう…』
憮然とした表情のジョットの頭を、Gは鼻を鳴らして小突く。
カプリ島に来て一週間。いくら作戦のためとはいえ2人での旅行なのだ。
少しは進展したかと思えば、ジョットの口からは呆れるような話しか出てこなかった。
『だいたいなんで押し倒した時に止めたんだ。そのタイミングで言っちまえばきっとそのまま…』
『あああああ止めろ止めてくれ。俺はユキを大事にしたいんだ後悔させるな馬鹿』
膝につくほど頭を下げて金髪をぐしゃぐしゃに掻き乱すジョットを、Gは笑い飛ばした。
大事にするも何も、気持ちを伝えきれていないんじゃ話にならない。
そう言ってやろうかと思ったが、己の幼馴染がそこまで馬鹿ではないことを知っているGは、笑いを堪えてジョットの背中を叩いてやる。
『ま、今上手くいかれたらお前は浮かれて作戦に集中しないかもしれないから、上手くいかなくて良かったのかもな』
『そんなことするか』
むすっとした表情で言うジョットは、Gと2人の時によく見せる幼馴染の顔だった。
Gはもう一度ジョットの背中を叩いて、赤い髪の上に帽子を載せる。
窓の外は藍色とオレンジ色のグラデーション。
夜になりつつある街の中、目的地であるクラブがすぐそこまで近づいていた。
* * *
『え!娘さんにもうすぐ子供が?』
スープを皿によそっていたユキは、声を弾ませる。
ランボルギーニはローストビーフを薄く切りながら微笑んで頷く。
ジョットとGがいないので夕食を作る必要がなくなった2人は、昼食の残りのローストビーフを、野菜と一緒にパンで挟んで食べようと用意をしていた。
『そんな時なのに家に帰れないなんて、ジョットったらもう…』
『いいのですよ。作戦が終われば休暇をいただけることになっていますので、生まれるまでには間に合うでしょう』
『私も行きたいな。ランボルギーニさんの家族に、お礼もしたいし』
野菜を挟んだパンをユキから受け取って、ランボルギーニは微笑む。
『光栄の至りでございます。何もない田舎ですが、おいでくださった際は歓迎いたしますよ』
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