オペラ ザ バタフライ 1
オペラ ザ バタフライ
『さすがにこの別荘の敷地内にはまだ侵入してねぇみたいだな』
『わざと開けた造りの屋敷を買ったからな。それに警備もいる』
『最低限の、な』
『マフィアとしての最低限のな』
ジョットはボス不在中の報告という名目でやってきた右腕とにやりと笑い合う。
ジョットが旅行中は責任者としてボンゴレを動かしている…ということになっているGは、紅茶を一口飲んでから本題に入る。
『この一週間で部隊は全員ボンゴレが用意した基地ユニットに入った。数はボンゴレが精鋭300、キャバッローネが100、ビルボが200』
『200?ビルボは総力だな。ずいぶんとおべっかを使ってくるものだ』
『まぁな。で、部隊は7つで指揮官は守護者とビルボのボスだ。念のためビルボの部隊はランポウの部隊と近い距離に配置してある』
『その方がいいだろうな』
『作戦行動が把握されないように少しずつ偵察要員をこの島に送り込んでいる。しかし驚いたぜ。巧妙に隠してやがるがこの島の半分近くがノヴィルーニオファミリーの物だった』
『正確にはカッペッレェリーアのな。名前を貸している貴族や成金は奴らの客ってことか』
おそらくな、と頷いてGは報告を続ける。
カッペッレェリーアのいそうな屋敷はいくつか絞り込めたが、女達が捕らわれている場所は依然として不明だ。
ジョットは顎に手をあてて報告書を睨むように繰っていく。
女の人数は10や20では足りないと聞いている。地図上で大体の位置は予測できても、実際いるかどうかは近づかなければわからない。
だが富豪や貴族の別荘地では人ごみにまぎれることはできず、調査の時間も限られる。
『あまり調査に時間はかけていられない。できるだけ急がせろ』
『ああ。…ところで、ユキは元気でやってるのか?』
とりあえず報告はジョットだけが聞き、内容をまとめてからユキに話すということになったため彼女は今ここにはいない。
まだ早朝で、Gが到着した時ユキはまだ眠っていたため、2人は顔を合わせていなかった。
『ユキは…。どうなんだろうな…』
遠い目をしてよくわからない返事を返すジョットを見て、Gは訝しげに眉を寄せた。
* * *
『なるほど…自分の気持ちがよくわからなくてうだうだ悩んでいるのですか』
『はっきり言わないでくださいぃ!!』
ユキはじゃがいもとそれを剥くための小刀を持ったまま顔を覆った。
隣で同じように小刀を持ったランボルギーニは、涼しい顔でじゃがいもを剥き続けている。
カプリ島に着いてから1週間。その間ジョットとユキは観光や乗馬などを楽しみ、普通の旅行のように振舞った。
ノヴィルーニオファミリーの売春業を一手に引き受けている幹部・カッペッレェリーアの偵察部隊と思われるマフィアが何人か外を歩くジョットとユキを監視していたが、それはボンゴレのボスであるジョットが現れたことによる、念のためのものにしか見えなかった。
ランボルギーニは料理も上手く屋敷をいつも綺麗に磨き上げる優秀な管理人だったが、家事をする毎日に慣れていたユキは遊んで暮らす生活に3日と耐えられなかった。
朝食の用意だけでもランボルギーニを手伝いたいと頼み込まれて、ジョットは呆れつつも仕方ないなと許可したのだ。
そのおかげでユキとランボルギーニは軽口を叩き合うほど仲良くなった。
そしてユキはとうとう、旅行前日に起こった出来事をランボルギーニに打ち明けたのだ。
『まず私はボスとユキ様がまだ恋人同士でなかったという事実に驚きましたがね』
皮を剥く手を止めずランボルギーニは口髭を震わせて笑う。
先のパーティでのジョットの片想い宣言はボンゴレと同盟ファミリー全てに伝わっており、知らないのは本人のみだ。
だがパーティから一ヶ月以上経った今、作戦の一部とはいえ2人で旅行に来るくらいだ。とっくに恋人同士になったのだろうとランボルギーニは思っていた。
『通りで。ユキ様は屋敷の中にいる時は少々ぎこちないと思っておりましたよ』
外に出る時はノヴィルーニオファミリーがどこから見ているのかわからないから、気合を入れて演技をしたが、屋敷の中ではどうしてもジョットをまともに見ることができない。
ジョットの顔を、輝く金髪を、優しい瞳を見るだけで呼吸困難になりそうになる。
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