恋物語カプリ島編 | ナノ


オールドライラック ストラテジー 1


オールドライラック ストラテジー







 波乱のパーティから1ヶ月が経った。

 刺しどころ(?)がよかったのかユキの怪我は順調に回復し、右手は問題なく動くようになった。


(傷が残ったのは仕方ないよね)


 ユキは洗濯物をたたむ手を止め、縦にまっすぐ伸びた右手の傷を眺める。

 この傷ひとつでキャバッローネ含む同盟ファミリーに自分のボンゴレ入りを認めてもらえたのだから、ユキにとっては名誉の負傷だ。








《よく俺を守ってくれた。ありがとう。ユキ》








『ッ////』


 いきなり顔が熱くなり、ユキは頭を振ってなんとか鎮めようとする。

 パーティ以降、ふとした拍子にジョットの顔を思い浮かべては赤くなっている自分に、ユキは動揺していた。





 ジョットはユキの恩人で、雇主で、忠誠を誓ったボスだ。

 タイムトラベルなんて突拍子もない話を信じてくれて、ユキを引き取ってこの屋敷においてくれた。

 ボンゴレボスの屋敷に素性の知れない女が住み込みで雇われたということが、同盟ファミリーであるキャバッローネを心配させ、それがパーティでの騒動に繋がったのだと祝勝会の席で聞かされた。

 キャバッローネの計画は想定外だったが、ジョット達はパーティの場でユキが屋敷にいられるよう同盟ファミリーやボンゴレ幹部を説得するつもりだったとも聞いた。





 それを聞いて、とても嬉しかった。





 パーティはとても楽しかった。

 視線がちくちくちくちく痛かったのは確かだが、綺麗なドレスが着られて、美味しいものが食べられて、皆と踊った。


(ジョットが…とても素敵だった)


 もう何度思い返したかわからない、ジョットの姿が再び瞼の裏に浮かび上がる。

 輝く金髪、オレンジ色の炎のような瞳。すらりと伸びた手足と均整のとれた体躯。

 声を上げて笑う姿は太陽のようで。口元を少し歪めただけの、かすかな微笑は月のように綺麗で。

 輝くものならなんでもジョットに例えてしまいそうで、ユキは左手で自分の頭をぽかっと叩く。




 そうしないと、いつまでもジョットのことを考えてしまいそうだったから。





『なんか変だな…。おかしいな、私』


 苦笑して洗濯物を畳むのを再開する。

 最近、自分の中に名称不明の気持ちが浮かんでは沈むことは自覚していたが、それをどうしたらいいのかユキにはわからなかった。


『ジョットが変だから、私も意識しちゃうのかな…』


 そう、最近のジョットはどこか変だ。

 仕事中にも関わらず頻繁にユキに会いに来て、話をしたりお茶を飲んだりする。

 それだけなら以前にも何度かあったので回数が増えたくらいにしか感じなかっただろうが、話している時の彼の態度に、ユキは違和感を覚えていた。



 何か言いたそうな顔をしているが、何も言わない。



 何度か口を開けたり閉じたりしているのを不思議に思ったユキが訊いても、ゆるゆると首を振りなんでもない、と言うのだ。

 なんでもないと言うには切なすぎるジョットの表情に何度も無駄にドキドキさせられたユキは、ジョットが何も言ってこない以上無理に訊くわけにもいかず悶々としている状態だ。

 Gや雨月にそれとなく訊いても曖昧な笑みを浮かべて知らないと言われてしまい、おてあげだ。





『なんか、言いづらいことがあるのかな…』





 一抹の不安を覚えながら、ユキは門衛の青年が業者の到着を告げる声を聞き、立ち上がってランドリールームのドアに手をかけた。