恋物語カプリ島編 | ナノ


バトルシップグレイ ビリーヴァー 2




『ユキ様の人を惹きつける力は、我らがボスに近いものを感じます』

『お前がそこまで言うとはな。 そういえば、あいつに呼び名を付けたのはお前だったか?』

『まぁ…そうですね』


 というか、思わず呟いた言葉を部下が勝手に広めてしまっただけなのだが、とリナルドは苦笑する。



【Aria di Vongola】



 風のようだと、思ったのは本心だ。

 ボンゴレの大空に寄り添う、風のようだと。


『ユキの捜索にはできる限り人を割いてくれ。あいつには実戦経験がない。いつまで逃げていられるかわからないな』

『組手の相手を何度か務めた者として言わせていただきますと、ユキ様の実力は十分。実戦など最初の一歩を踏み出す度胸さえあれば問題ないでしょう』


 リナルドはけろっとそう言って微笑む。


『そして、ユキ様の度胸の据わり具合は折り紙つきと言えましょう?』

『まぁ…そうだな』

『後はボスがさっさとユキ様に想いを告げて結婚でもなんでもして下さればボンゴレは安泰です』


 にこにこしながらそう話す右腕に、Gは苦い笑みを向ける。


『随分と気が早ぇな』

『早くて悪いということもないでしょう。…あぁ。ですが欲を言うなら』


 リナルドは…ボンゴレの右腕の右腕は、顔を上げてGと視線を合わせ、にやりと口元を歪めた。


『自分はG様付きですので、ユキ様と添われるのがG様であればなお良いのにと思います』

『………馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ』

『これは失礼いたしました』


 悪びれた様子のないリナルドに、Gは一つ溜め息をついて再び窓の外へと目を向ける。



 空は赤と藍色のグラデーションを作り、夕方から夜へと変わろうとしていた。





* * *





『っくしゅん!』


 くしゃみをした拍子に起き上がったユキは、自分が見知らぬ場所にいたことに気付いた。

 周りを見回せば、白いもやのようなものが立ち込めている不思議な場所だった。

 周囲には誰もいなかったが、ユキは特に動じていなかった。ローザも、ビルボ姉妹も、同じ部屋の女達も、誰もここにはいない。

 自分だけがここにいる。

 その事実に、ユキは唇の端を釣り上げた。


 だが相変わらず周りは白いもやがゆっくりと蠢いていた。

 視界はかなり悪く、むやみに動くのは危険だと判断して、ユキは立ち上がった。

 手を伸ばしてみても、もやが腕を撫でるだけで、何にも触れない。

 その様子を見ながらユキは、これでは足りないのだと気付いた。

 足りないというよりも、まだ繋がっていないのだ。



 自分と、彼の夢は、まだ繋がっていない。



『ッ!』


 唐突に、首筋のあたりにざわりとした感覚を感じ、ユキは思わず自分の両腕を抱きしめた。


 来る。いや、いる。

 彼はすぐそこまで来ている。

 どうしたらいいのだろうと考えたのは一瞬だった。

 考えるまでもない。

 こんなこと、やってみたことなどないのだ。どうしたらいいかなんてわかるわけがない。

 だったら、呼ぶしかないのだ。

 自分が会いたい人。

 会いたいと望んでいた人物の名を、呼ぶしかないのだ。



 ユキは静かに目を閉じ、そして一言、彼の名を呼んだ。





『D』








 途端、立ち込めていたもやが目の前で二つに割れた。

 霞がかった視界が、そこだけ晴れていく。



 あぁ、これはもやじゃなくて、霧だったんだ。

 今更ながら、そう気付いた。

 だって彼は、ボンゴレの…霧の守護者だから。





『ヌフフフフ…。ようやく逢えましたね、ユキ』





 霧が生き物のようにうねり、形作っていくのを見ながら、ユキはにっこりと微笑んだ。





 風と霧の夢が、完全に交わろうとしていた。








(再会は玉響か…それとも?)







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