恋物語カプリ島編 | ナノ


ブロンズ バッド バット 3




 飛び込んできたのは屋敷を警備しているボンゴレの青年だった。

 ドアが開いた途端、外の音が流れ込んでくる。

 銃声、怒声、馬の嘶き。

 腕から血を流し、息を乱す青年は今にも倒れそうなほど真っ青な顔をしている。


『敵襲!?』

『ばかな!カッペッレェリーアか?』

『わか、りません!我々だけでは抑えられない人数です!
 とにかくお逃げください!馬は全てやられました。森を抜けて…街へ!』


 そう告げると、青年は踵を返して外へと向かう。

 ランボルギーニは明かりを消し、ユキの腕を掴んで走り出す。


『ランドリールームの地下に敷地内の森へと抜ける通路があります。街を目指せばボスがいるはずです!』


 ランドリールームに着くと、ランボルギーニは暗闇の中で棚をスライドさせる。

 後ろから現れたドアを開けた途端、廊下から聞こえる足音が大きくなる。

 銃声が響き渡り、ランドリールームのドアが打ち抜かれる。


『ユキ様、早く!』

『はい!』


 先に行けと促され、ユキは階段を駆け下り、暗い地下通路を走る。

 走りながら、カプリ島の地図を頭の中に思い浮かべる。


 この通路が森に繋がっているなら、森を東に抜ければ街に続く道だ。

 そこまで行けばもう人通りは多い。街に出て、なんとかジョットを見つけないと。


 地上に抜ける梯子を見つけ、ユキは飛びつくように足をかける。

 よじ登り、木でできた天井扉を叩き壊す勢いで開ける。

 地上に出ると森が目の前にあった。地下通路を覗き込むと、ランボルギーニが梯子に足をかけているところだった。


『ランボルギーニさん!』


 腕を伸ばすと、ランボルギーニが上を向いた。


『ユキさ ま゛っ……』


 瞬間、ランボルギーニの顔が凍りついた。

 暗闇にも、彼の肩口から血が吹き出したのがわかった。


『ランボルギーニさんっ!!!』


 悲鳴に似た叫びがユキの口から発せられる。

 次いで三度の銃声の後、ランボルギーニの体が三度揺れた。三度、体から血が吹き出した。

 声にならない叫び声を上げるユキを、ランボルギーニが見上げた。


『お逃げ、くだ…さい。ユキ様…』

『いやっ、いやだ!ランボルギーニさんっ!!』

『私は、貴女をお守りするために…いるのです。逃げて…ボスの元へ行きなさい』

『いやっ…いやぁっ……』

『行きなさい!!』


 腹の底から発せられた声にびくりと体が震えると、目に溜まっていた涙が零れ落ちた。


 ぽたりとユキから離れた涙が、ランボルギーニの顔に落ちる。



 穏やかな笑顔を浮かべたランボルギーニが、そこにいた。





『お仕えできたこと、心から光栄に思います。ボスと、貴女と…ボンゴレに』





 そう言って、懐から取り出した手榴弾を、ランボルギーニは強く握る。


『行きなさい!』


 その声に弾かれたようにユキは走り出した。止まらない涙が、後ろに向かって流れる。





 優しかった。

 たった一週間だけだったが、確かに彼は優しく、素晴らしい人だった。





 耳を劈くような爆発音が鳴り響いた瞬間、ユキは獣のような叫びを上げた。








 この仕打ちを絶対に許さないと、心に誓った。





* * *





『なん…だと?』


 Gに締め上げられ、質問に答えつくして気絶したビルボファミリーのNo.3を見下ろして、ジョットは拳を握る。



【ボンゴレの別荘・マルツォ・コニーリォを今夜襲撃。ボンゴレプリーモと、その女を生け捕りにする】





 裏切り者の蝙蝠は、開戦を大空に告げた。








(G!すぐに全基地に通達しろ!俺はユキを助ける!)







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