恋物語カプリ島編 | ナノ


ブロンズ バッド バット 2





『収穫はなさそうだな』


 帽子を深く被って輝く金髪をできるだけ隠したジョットは、琥珀色の酒が入ったグラスを片手にぼそりと呟いた。

 女人禁制のクラブは思ったより賑わっていて、酒に葉巻、カードなどに興じる紳士が大勢いたが、今回の捕り物に関わっていそうな人物は見当たらない。

 ジョットと同じく帽子を被り、刺青がある側の顔は意図的に壁の方へ向けて立っているGも、同意見だと言わんばかりの溜め息をついた。


『カッペッレェリーア本人にでも会えたらこの捕り物、すぐに片がついたんだけどな』

『そう上手くはいかないってことだろう』


 酒を飲み干し、そろそろ引き上げようかと椅子から腰を浮かせかけたジョットは、機嫌の良さそうな笑い声に反応して目を動かした。

 カーテンで仕切られた、個室が並ぶ場所へと続く廊下からのようだ。

 聞いたことのある声だった。この島で、怪しいと思うには十分な理由だった。


『G』

『ああ』


 2人は頷きあって新しい酒を取り、カーテンの隙間から廊下へと体を滑り込ませる。

 他愛も無い会話をするふりをしていると、声の持ち主はすぐ見つかった。

 開けっ放しのカーテンの向こうには、ソファにどっかと座って、酒を瓶のまま喉に流し込み大笑いする、でっぷりと太った男の姿があった。

 赤い顔のその男が誰であるかに気づいたジョットは眉を顰める。


『あの男…』

『あぁ、ビルボファミリーのNo.3だ』


 Gもいつも以上に眉を寄せ、男を見据えている。

 ビルボファミリーの人間がこのカプリ島にいることは何もおかしくはない。

 だが、作戦を前にしてこのようなクラブで飲んだくれることをジョットは許してはいなかった。

 Gがすっと傍から離れ、しばらくして戻ってくる。


『ビルボのボスはいない。あいつと傍にいる部下2名だけだ。それと…』


 Gはそこでぎっと鋭い視線を向ける。


『隣に座っているのはカッペッレェリーアに屋敷を貸している成金だ』


 すうっとジョットの心が冷えた。

 No.3の男の横には、双子なんじゃないかと思うほど同じように太った赤ら顔の男。

 ジョットはまだ残っている酒を置き、右腕と視線を合わせる。


『まさか蝙蝠がいるとはな。成金は泳がせてビルボの3名だけ誰にも気づかれないよう捕えろ。できるな?』


 ボスの命令に、右腕は薄く笑みを浮かべてグラスを置く。





『蝙蝠退治はお手の物だぜ。ボス』








* * *





 最初にそれに気づいたのはユキだった。

 夕食を取り、風呂を使い、ランボルギーニとココアを片手にくつろいでいる時だった。

 何度か時計を見、ジョット遅いね、もうすぐ帰ってきますよ、なんて会話を交わしていた。


 何かが落ちるような音が聞こえた気がしたのだ。



 どさりと、それなりの質量のある重いものが。



『ねぇ、ランボルギーニさん…』

『? どうかしましたか?』


 不思議そうにランボルギーニは首を傾げ、ユキは思わずソファから立ち上がる。



 何かはわからない。

 なんなのかわからないが、ざわざわしたのだ。

 背中に冷たいものが流れるような、いやな感じがするのだ。




 その瞬間、ばたばたと走る音がし、談話室のドアがばたんと開けられた。





『ユキ様!ランボルギーニさん!敵襲です!』