恋物語カプリ島編 | ナノ


レモンイエロー アイランド 2







『聞いていた通りレモンの木ばかり!いい香りがするね』


 目をきらきらと輝かせてはしゃぐユキを、ジョットは馬車を操りながら微笑んで見る。

 ジョットと共に御者席に座ったユキは、首まで詰まった山吹色のワンピース姿。ジョットもいつものスーツではなく濃い茶色の旅装だ。

 馬車は港近くにあるホテルやレストラン等が立ち並ぶ広場を抜け、今は特産品であるレモンを作る農地が広がる場所に差し掛かっていた。

 道を歩く農民の少年に手を振るユキの笑顔はいつもと変わらない柔らかいもので、ジョットは安堵した。

 その一方で、昨夜の出来事をユキが全く気にしていないのかと不安にもなった。





 昨夜自分の部屋でユキを抱き締めた。

 びくりと強張った体。細い肩と小さく、柔らかい体。うるさいほど鳴っていた心臓の音は、はたしてユキのものだったのか自分のものだったのか。





(あれはまずかったな…)





 昨日の自分の醜態を思い出し、ジョットは唇を噛んだ。

 恋人のふりをしろなどと、なぜ言ってしまったのか。

 ふりではなく、恋人として共にきてほしいとなぜ言えなかったのか。

 おまけに中途半端なことを言ってしまった。

 自分の気持ちがわからないと、頬を桜色に染めてうつむくユキが可愛くて…本音を、言ってしまった。



 ユキは混乱していた。

 今にも倒れそうな顔をして、明日の準備があるとかもごもご言いながら逃げるように部屋から出て行ってしまった。


『(恋だったらいいって、なんだよ。願望をそのまま口に出してどうする)…くそっ』

『え?』

『いや、なんでもない』


 昨夜はあれほど動揺していたにも関わらず、今朝部屋から出てきたユキはいつも通りで、今もそれは変わらない。

 こうして御者席に並んで座っているだけで、十分恋人同士の旅行に見えるだろう。

 だが、ユキがいつも通りであればあるほど、ジョットにはユキの気持ちがわからなくなっていく





 ユキはこの旅行を、作戦のためと割り切ってしまったのだろうか。





* * *





 マルツォ・コニーリォと名付けられた別荘は、ボンゴレ屋敷ほどではないが、広い敷地内に静かに佇む真っ白な屋敷だった。

 門からしばらく馬車を走らせて屋敷の前に到着した2人に向かって、初老の男が駆け寄ってくる。

 ジョットは先に馬車を降りてユキが降りるのに手を貸しながら、男に笑いかける。


『久しぶりだな、ランボ』

『お久しぶりでございます。ボス。そちらがユキ様でございますね。私この別荘の管理を任されましたランボルギーニでございます』

『はじめまして』


 ランボルギーニは普段は別のボンゴレの屋敷を管理している者のうちの1人なのだが、マルツォ・コニーリォ購入と同時にカプリ島に移住してきたのだという。

 ジョットとユキが滞在中の世話は彼がすると聞いて、ユキは少しだけ残念そうな顔をする。


『つまり私の出番はないのか…』

『当たり前だ。旅行に来てまで働いてどうする』


 呆れるジョットから荷物を受け取って、ランボルギーニは穏やかな笑顔を浮かべて2人を屋敷へ入るよう促す。

 屋敷の中も白を基調とした色彩で明るく、玄関ホール、広間、ドローイングルーム、談話室、食堂と案内されると、ユキはその美しさに次々と目を奪われた。





 一通り案内を終えた後、ランボルギーニは足を止めてジョットの方を向く。