フロスティグレイ アイ ドント ノー 2
『もう1つ。ノヴィルーニオには俺がカプリ島に行くのは恋人との2人きりの旅行を楽しむためだと思わせる』
そこで言葉を切ったジョットは、ユキの手を掴んで自分の方に引き寄せる。
突然のことにバランスを崩したユキはそのままジョットの胸に倒れこむ。
薄いシャツ1枚のジョットの広い胸は直接体温が伝わってきて、びくりと体が強張る。
顎に触れられ上を向かせられると、ジョットの顔が触れそうなほど近くにあった。輝く金髪と濡れたように揺らぐオレンジの瞳に、吸い込まれそうになる。
ジョットは魅入られたように固まっているユキに、蕩けるような笑顔を向けて言葉を続ける。
『明日この屋敷を出てからは、恋人同士のように振舞ってもらわなければならない。この旅行も、大事な作戦の一部だからな』
心臓はうるさく鳴っている。なのにジョットの作戦という言葉につきん、とした痛みを感じた。
名前のわからない感情のままに言葉を口走ってしまいそうになり、ユキは唇を噛んで目を背ける。
『大丈夫…。できるよ』
『ユキ…?』
顔を覗き込もうとするジョットに、ユキは無理矢理笑顔を作る。
彼を心配させることだけは、どうしても避けたかった。
『せっかく作戦に参加できるんだから。頑張るから心配しないで、っ』
いけない。声…裏返った。
じわりと目頭が熱くなり、慌てて堪える。
『ごめんなさいジョット。なんか、変な気持ちで…』
『変な気持ち?』
『えっと…よくわからないの…』
なんでこんな気持ちになるんだろう。
こうしてジョットの隣にいるととてもあたたかい気持ちで胸がいっぱいになるのに、彼の言葉ひとつで、こんなにも心が揺さぶられる。
再び顔を上げさせられ、ジョットの顔を見てユキははっと目を瞬かせた。
ジョットはあの表情を浮かべてユキを見ていた。
パーティ以降ユキがずっと気になっていた、あの狂おしくなるほど切ない表情。
潤んだように揺れるジョットの瞳が、ふっと細められる。
『お前のその、よくわからない気持ちというのが…』
腕が回されて柔らかく抱きしめられると、心臓が止まりそうになる。
あたたかい体温が全身に伝わってくるのに、死んでしまいたくなるほど胸が痛い。
ジョットの低い声が、静かに耳元に降りそそぐ。
『恋だったら…いいのにな……』
(それは…どういう意味……?)
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