恋物語カプリ島編 | ナノ


オールドライラック ストラテジー 2







『アル。まだ席についててくれ。皆に話したいことがあるんだ』


 夕食を食べ終えてコーヒーを飲み干すとさっさと食堂から出て行こうとしたアラウディを、ジョットが呼び止める。

 全員食事は終わっていて食後のコーヒーを飲んでいるところだったため、何か大事な話をするのだと悟ったユキは慌てて皿を片付けてキッチンに引っ込もうとするが、ジョットがそれを制した。


『ユキも座ってくれ。一緒に聞いてほしい』


 その言葉にGとアラウディの眉がぴくりと動いた。

 ユキは静かに頷いて、急いで皿をキッチンに下げてから席に着く。

 全員の注目を集めたところで、ジョットはコーヒーをひとくち飲んでから話し始める。


『ノヴィルーニオの尻尾を掴んだ』

『ノヴィルーニオ……』


 ジョットの口から出た名前を復唱して、ユキははっと2週間ほど前に雨月の授業で聞いた内容を思い出した。

 ノヴィルーニオファミリーとはイタリアンマフィアであるが、フランスを拠点に活動しているファミリーだ。

 イタリアンマフィアの間では禁忌とされている売春業に手を出し、売買する女をイタリアで集めているという疑惑があがっていた。

 ユキが関わったことがあるヴォルパイヤファミリーも、ノヴィルーニオファミリーがイタリアで活動しやすくするために作ったファミリーの1つではないかと考えられていたらしい。

 ボンゴレや同盟ファミリーの管轄地域でも、ノヴィルーニオに攫われたと思われる女性の行方不明者が何人か確認されているという話だった。


『奴らはイタリアのある場所に攫った女を集めておき、定期的にフランスへ運んでいるらしい。その場所に売春業を一手に仕切っている幹部・カッペッレェリーアがいる』

『カッペッレェリーア《帽子屋》?』


 首を傾げるランポウに、ジョットは肩を竦めて見せる。


『そいつの通り名だ。ふざけた名前だがなかなかのやり手らしくてな。そいつを潰せばノヴィルーニオの売春業はがたがただ』

『それは確かな情報なのかい?最初にその話を始めたのはビルボファミリーだったと記憶しているけど』


 アラウディの質問にジョットは頷いた。


『あそこは信用回復に励んでいるらしいから嘘は言ってこないだろう。もちろんこっちでも調べさせたが間違いなさそうだ』


 そう言って、ジョットはゆっくりと椅子の背にもたれかかる。


 ノヴィルーニオはもちろん同盟ファミリーではないし、フランスで活動している以上、売春業が禁忌とはいえ彼らの活動をとやかくいうつもりはボンゴレにはなかった。

 だが、商品となる女をイタリアで集めているのであれば黙ってはいられない。それがボンゴレや同盟ファミリーの管轄地域内でも行われているのだからなおさらだ。


 ジョットが1人で殲滅したヴォルパイヤとは違い、ノヴィルーニオはカッペッレェリーアに数百人もの部下を与えているという。


 だが尻尾を掴んだ以上、今が潰すのに絶好の機会だ。


『カッペッレェリーアと女達がいる場所に、1つ屋敷を買っておいた。もともとイタリアでは避寒地に入る場所だから別荘という名目で十分だ』


 屋敷を買ったとあっさり言うジョットにユキが驚いている間に、Gが眉間に皺を寄せてジョットを見据える。


『女達の救出がある以上、奴らに気付かれないように部隊を配置する必要があるな』

『俺達が1人ずつ部隊を指揮し、四方八方から究極に攻めるのだな』

『ヌフフッ。攻めると同時に女達も救出するわけですが、捕らわれている正確な位置を割り出すのは容易ではありませんよ』

『囮がいるね』


 アラウディが静かに言う。


『カッペッレェリーアの気を引いて、敵の人数を少しでも多く引きつける。そんな囮が』

『それには俺がなる』


 あっけらかんと言ってのけるジョットにユキは目を剥く。しかし、ジョットはそんなユキににっこりと笑いかけた。



『ユキ、2人で旅行に行かないか?』

『へ?』