あと一歩なんてものじゃない 1
『おかえりなさい。…大丈夫?』
あと一歩なんてものじゃない
階段を下りると、キャバッローネセコーンドの屋敷に招かれていた嵐と晴の守護者の2名が、足元をふらつかせながら玄関から入ってくるところだった。
笑顔で出迎えたなまえは、顔の色が青を通り越して白くなっているGとナックルを見て顔を引きつらせた。
『あ゛ー…大丈夫じゃ、ねぇ…』
Gは頭を抑えながら返事をしたが、ナックルに至ってはか細い唸り声しか出ない状態だ。
キャバッローネ邸で酒を振舞われるとろくなことがない、とGが呟いていたが、いったいどれほど飲まされるのやら。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩めたGは、ふらふらとなまえに近づき、ぽん、と頭の上に手を載せた。
『なまえ、悪いが…俺達は部屋に引き上げるから、ジョットを頼む。部屋に…連れて行ってやってくれ…』
『ジョットはまだ馬車の中なの?』
Gはその問いに頷いた。いつも以上に眉根をきつく寄せているのは頭痛の所為なのだろう。
『あいつも相当飲んだからな…。まぁでも…今日はまだまともな酔い方だから…大丈夫だろう…』
そう言って、ナックルの襟首を掴んで引き摺りながらGが行ってしまうと、なまえは玄関の扉を押し開けた。
階段を駆け下りてドアが開きっ放しの馬車を覗き込むと、上着を脱いでベスト姿のジョットが座席に寝転んでいた。
眠ってしまったのかと思ったが、物音に気づいたのかけだるそうに身じろぎしたジョットはゆっくりと目を開いた。
オレンジの瞳がなまえを見とめて、ゆっくりと笑みを浮かべる。
『ただいま…』
顔色も悪くなく、悪酔いしている様子がないことに、なまえは顔をほころばせる。
『おかえりなさい。歩ける?』
『ん…くらくらする』
ジョットは肘をついて少しだけ上体を起こし、へらりと苦笑した。馬車の窓から差し込む月明かりに照らされた頬が、ほんのり赤い。
なまえは傍に膝をついて、腕を広げる。
『起こしてあげる。ゆっくり、きて』
背中に腕を回すと、ジョットの肩がびくりと震えた。服越しに伝わる熱が予想していたよりはるかに熱く、お酒って凄いな、となまえは目を丸くする。
『お前…そういうこと、言うな…』
なまえの肩に顔を埋めたジョットは、ふてくされたように呟いた。
言葉の意味はわからなかったが、その子どものような口調になまえは微笑ましい気持ちになる。
ジョットを起こそうと、ぐっと力を入れる。だがジョットが起き上がろうとしないのか、体が持ち上がらずなまえは困惑気味に眉を寄せた。
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