メーラ舞う 1
『ねぇ、何してるの』
『きゃああああっ!!』
ボンゴレ本部でのパーティから一週間が経った日の夜。ボンゴレ屋敷の廊下で突然後ろから声をかけられたなまえは悲鳴を上げ、持っていた荷物を全て床に落とした。
激しく鳴る心臓部分を左手で押さえて振り返ると、不機嫌そうに眉を寄せたアラウディが立っていた。
一本一本が光を反射するプラチナブロンドと色素の薄い碧眼、ほとんど黒に近い紺色のコートという相変わらずほれぼれするほどの美青年だ。
なまえは声をかけてきたのがアラウディであったことにほっと安堵の息を吐いた後、目を丸くした。
『おかえりなさい。もう会議終わったんですか?』
夕方、ボンゴレ上層部の会議があると言って、ボスと守護者全員が本部へ出かけて行ったのだ。
今日の会議は守護者全員来てもらわなければ困るということで、アラウディも強制的に馬車に乗せられていたはずだ。
きっと帰りは夜中になると聞いていたので、出かけてから3時間しか経っていない今は誰もいないはずだった。だから声をかけられて驚いたのだ。
アラウディは軽く頷いてコートを脱いでなまえに渡す。
『ただいま。僕が参加するべきところまではちゃんと参加したよ』
つまり、会議を抜けて先に帰ってきたらしい。
重要な会議だと言っていたのにとなまえは呆れるが、ジョットが何も言わずに帰したということは、彼は自分と関わりのある部分はしっかり参加してきたらしい。
アラウディはすっと視線を下げ、次いで目を細めてなまえを見つめる。
『それで、君はいつ僕の質問に答えてくれるの?』
『へ?』
きょとんとするなまえに、今度はアラウディが呆れたと言わんばかりの表情で床を指差す。
そこにはなまえが驚いた拍子に落とした本が散らばったままだった。
『いけない!』
なまえは預かったコートを一旦アラウディに返すと慌てて本を拾い集める。
分厚い洋書が4冊と和綴じの本が2冊。本を抱えて立ち上がると、なまえは笑顔でアラウディを振り返る。
『ごめんなさい。皆が注文してた本が今日一気に届い…たん……で、す?』
顔を上げながら言うと、形の良い眉をぎゅっと寄せた不機嫌そうな表情で睨まれて、言葉が一気に萎んでいく。
アラウディはコートを腕にかけ、なまえが抱えている本を片手で奪い取ると、もう片方の手でなまえの右手首を強く掴む。
『痛っ』
『君はまだ重いものを持つことは禁じられていたはずだけど?』
パーティでの騒動の際にナイフで貫かれたなまえの右手は、治療が施されて順調に回復していたが、まだ抜糸は済んでおらず家事のほとんどは禁止。持つものすら厳しく制限されていた。
なまえは一瞬走った痛みに顔を顰めたが、すぐに笑みを浮かべる。
『本くらいなら持てますよ。右手に負担のかからないようにできますし』
その弁解にアラウディは片手に持った6冊の本を見る。
たった6冊ではあるが事典も含まれているのでずっしりと重い。
無言の圧力を感じたなまえは眉下げてごめんないさい、と謝る。
それに満足した様子のアラウディはなまえの右手を放し、コートを渡す。
『コートを頼むよ。それとコーヒー、淹れて』
『あ、はい。でも…本が』
『談話室に持ってきて。本はそこに置いておくよ』
言うだけ言ってすたすたと行ってしまうアラウディの背中を見ながら、なまえは慌ててコートを持ってランドリールームへと急ぐ。
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