彼女を探して 1
『…おかしいな。どこへやったんだ…?』
彼女を探して
ボンゴレ屋敷の自分の部屋で、ジョットは探し物をしていた。
同盟ファミリー・キャバッローネのボスであるキャバッローネセコーンド夫婦から贈られたネクタイだ。
今日はキャバッローネの屋敷に招待を受けていて、招待状には是非あのネクタイをつけてきてほしいと妻が言っていると記されてあった。
年上の友人とその妻の願いを叶えない理由はなく、クロゼットを開けたが肝心のネクタイが見当たらない。
『困ったな…』
クロゼットの中を全てひっくり返し、ベッドのシーツやソファカバーを剥がし、ないとは思ったが念のため全ての棚の引き出しも漁った。
だが見つからない。
ネクタイは贈られてまだ日が浅く、失くしたと言うのは余りに心象が悪い。
ジョットは眉を下げ、頭を掻いて金髪を乱しながら散らかった部屋をそのままに出ていく。
真っ直ぐ己の右腕の部屋に向かい、ノックの返事と共にドアを開けた。
『G!キャバッローネからもらったネクタイがないんだ』
デスクで書類にペンを走らせていたGは一瞬呆気にとられた顔を浮かべたが、すぐに納得してあぁ、と呟く。
『あのクリスマスにもらったやつか。キャバッローネにしちゃあ趣味のいい』
『夫人の趣味だ。ってそんなことはいいからどこにしまったか覚えてないか?』
ジョットはそう言ってGを急かすが、いくら右腕とはいえボスのネクタイのことまですぐに答えられるわけもなく、腕を組んで眉間に皺を寄せて考え込む。
『たしか、どこかがほつれてたとかでなまえに預けたんじゃなかったか?』
なんとか記憶の糸を手繰り寄せたらしいGの言葉に、ジョットはぽんと手を打つ。
数日前にほつれて糸が飛び出していたのをなまえが見つけ、繕っておくからと言われてそのまま預けてあったのだった。
どこにあるのかはっきりして、ジョットは安堵してソファに体を沈める。
『なくしたんじゃなかったか。よかった』
『一応なまえに確認しておけ。夕方には出るんだろう?万が一まだ繕ってなかったらことだぞ』
書類に再び取り掛かり始めたGの言葉にそれもそうかと頷いて、ジョットは礼を言って部屋を出る。
* * *
とりあえず階段を下りて食堂に向かう。
朝食が終わってからまだ1時間も経っていないからいるだろうと思っていたが、ジョットの読みは甘かった。
食堂のテーブルには見事に何もなく、テーブルクロスも新しいものに替えられていた。
奥にある、普段は足を踏み入れることのないキッチンへと続くドアに手をかける。
だが、そこにもなまえはいなかった。
大量の皿は全て洗い終えたのか食器棚に収納されていて、コンロの上には昼食で出すらしいトマトソース(パスタか)とスープの鍋がある。
食欲をそそる匂いをなんとか堪えてキッチンを出ると、食堂に入ってきたナックルと鉢合わせする。
『おおプリーモ!こんなところで会うとは珍しいな』
黒髪の精悍な顔立ちの青年に、ジョットは笑顔を返す。
『なまえを探しているんだ。見ていないか?ナックル』
『おお、なまえなら先ほど守護者用の風呂場で見たぞ』
屋敷の最上階にはボス専用と守護者専用の、2つの浴室がある。
各部屋にシャワーはついているが、雨月のことを考えたのとジョットが風呂好きなため、ゆったり入れる浴室がある。
雨月以外は毎日湯につかっているわけではないが、なかなか重宝しているらしい。
『ざっかざっかと洗っていたのでな、使っていいか聞いたらもうほとんど終わって次はボス用だから、と究極に了承してくれたぞ!』
『ざっかざっか…?つまり今は俺用の浴室にいるんだな?』
あそこは究極に広いから時間がかかるだろう、と笑うナックルに苦笑を返してジョットは食堂を出る。
1階から最上階まで行くのは、疲れはしないが少しだけ気が滅入った。
だが、ボス専用の風呂場にもなまえはいなかった。
もう1つの階段から降りてしまったのだろうか、とジョットはざっかざっか洗った結果らしいぴかぴかの風呂場を見渡した。
守護者用の風呂場も覘いたが、こちらもナックルが使った後とは思えないほどぴかぴかだった。
大理石の床に檜風呂。雨月にミスマッチだと笑われGに手入れが面倒だと渋い顔をされても設置を強行した風呂場だ。
大理石は水垢ひとつなく磨き上げられ、檜風呂も湯が抜かれて水気が綺麗に拭き清められていた。
思わず感嘆の溜め息をついた後、ジョットはなまえを探すため風呂場を出て階段を下る。
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