恋物語番外編 | ナノ


花に凍り人に融ける 2


 木々が生い茂った道を抜け、なまえは両膝に手をつく。荒い呼吸を繰り返し、流れた汗が地面に落ちたのが見えて思わず閉じた。

 少々走ったくらいで疲れるはずがないのに、心臓が異常なほど早く鳴っていた。


『も…なに…。もう、やだ…。っはぁ…帰ろう…』


 もう怖い。もういやだ。シーツは諦めて、帰ろう。ジョットに頼んで、給金から引いてもらおう。

 そう決めて顔を上げ、なまえは絶叫した。

 下を向いていたので気づかなかった。





 目の前に、一面のひまわり畑が広がっていた。





 そういえば、去年作ったよね。


 そんな記憶が頭の片隅で甦ったが、それ以外はすべて恐怖で埋め尽くされていた。

 太陽を追ってその大輪を向けるはずのひまわりたちが、すべてこちらを見ている。


『や、やぁ…やだ…っ……』


 全身の血が凍ってしまったかのようだ。逃げ出したいのに、動かない。

 怖い。怖い怖い。怖い怖いいやだやだもうやだ








『なまえ』


 ふっと、背中があたたかくなった。

 額に大きな手が添えられ、ゆっくりと頭を後ろに反らされる。


『…こほっ……ア、ラウディ…さん』


 目のすぐ横に、深い紫色のナロータイの結び目が見え、喉に詰まっていた息がゆっくりと外に出ていく。

 見上げると、光に反射して透明にすら見えるプラチナブロンドと、水のように冷たい碧眼があった。


『落ち着きなよ、なまえ』


 背中から、少しずつ、少しずつ、あたたかさが伝わってきた。恐怖に強張っていた体にしみわたるように、再び血が通っていくような、そんな気がした。


『あったかい…っ…アラウディさん…』

『今日は暑いからね』


 そういうことじゃないと思ったが、なまえは力なく笑って頷いた。

 花による恐怖に凍りついた体は、今、なまえの傍に確かにいる、アラウディに融かされた。








『でも珍しいね。君が幻術にかかるなんて』

『へ? 幻術?』




* * *





二時間後……


『ヌフフ。以前の【くだらない話】で、好きなものに対してだと知識の吸収率が良くなると言う話になったものですから、幻術にも起こりうるかと思いまして』

『なまえの好きな、花で究極に試してみたということだな!』

『止めておけナックル。巻き添えを食うぞ』

『ボスの言うとおりだものね。この空気の中よくDさんと喋る気になれるんだものね…』

『皆おまたせっ。今日はオムライスに皆の顔を描いてみたんだよ!』

『ひぃっ!』

『う、上手いでござるな…、』

『すげぇな。ケチャップでよくここまで…』

『ヌハッ…。あの、なまえ?』

『なに?』

『私のオムライスに…というか私の顔の真ん中にナイフが…というかこのナイフはいつもの銀食器ではなくなまえの武器…』

『食べればいいんじゃないかな? ぐちゃぐちゃの自分の顔を』

『ヌハァッ!!』





 その時のなまえの笑顔を、アラウディ以外の6人はその夜夢に見たとか見なかったとか。

















(ちなみにデザートのケーキは一番大きいものがアラウディに取り分けられた。そしてDの分にはナイフが突き刺さっていた)

(Dはついに泣き出した)





* * *

10万を踏んでくださっためぐみるく様リクエストの【くだらない話が原因で起こったちょっとした騒ぎ】のお話です。
くだらない話関連にもかかわらず、アラウディさん落ち?になってしまいました。
夏っぽくホラーとひまわりを取り入れてみたんですが、どっちもかすった程度で…;
前置きも後付け?も長くなりましたが、いつもと違う雰囲気の話になったかなと思います。
めぐみるく様のみお持ち帰り返品可です。
キリリクありがとうございました!





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