恋物語番外編 | ナノ


朝からはキツイ


 今日はとてもいい天気だ。

 朝の散歩をしていると、トレーニングの最中だったナックルと出会い、他愛もない話をしながら屋敷への道を戻る。

 廊下を歩き、今日はどの書類を優先的に片付けたらいいんだったか、などを考えていたジョットの動きがぴたりが止まる。

 なんともいえない微妙な表情で窓の外を見るジョットに、ナックルは小首を傾げて彼の視線を追い、たちまち同じ表情になる。

 ジョットは窓の外を指して怪訝そうな表情をナックルに向ける。


『あれは、なんだと思う? ナックル…』

『うむ……』


 ナックルは眉を寄せ、じっと窓の外を凝視して、断言した。


『うむ!究極に踊っている帽子屋だな!』








朝からはキツイ








 にかっとした笑顔と共に言葉にされて、ジョットはますますげんなりする。

 窓の外、よく手入れされた芝生の上で、細身のライトグレーのスーツをきっちり着こなし、首の後ろでひとつに束ねたプラチナブロンドの上にワインレッドのハンチングを被ったいかれ帽子屋が、くるくる回りながら踊っていた。ひとりだ。

 すらりとした長い手足を持つ彼は、普段から芝居がかった動作をしているためか上手いか下手かといえばその踊りは上手いといえるだろうとジョットは思った。

 これが舞台や宴会の場であるなら楽しめたかもしれないが、生憎ここは自宅である屋敷だ。


 彼が屋敷を訪れることは許可したが、踊ることは許していない。そんなことをするとは誰も思わないではないか。いや、この帽子屋相手ならそれくらい予期するべきなのだろうか。

 仕方ないなと肩をすくめ、ジョットは窓を開けて未だ長い手足を伸ばして回り続ける帽子屋に声をかける。


『何をしている?カッペッレェリーア』


 大きめの声で名前を呼ぶと、くるくるしていた帽子屋はぴたりと動きを止めた。窓の内側にいるジョットとナックルと目に留めると、大袈裟な所作で礼を取る。

 頭のハンチングは被ったままだが、彼が帽子屋と呼ばれる所以なので気にはしない。


『嗚呼ボス、ナックル様。おはようございます。お約束の時間にはまだ早いので、待機させていただいておりました』

 ボスと守護者の自宅の庭で踊ることを待機といえるのかは微妙なところだが、とりあえず納得する。


『究極に完成度の高い動きだったぞ! 帽子屋』

『嗚呼、光栄にございますナックル様。現在の感情を表現した踊りなのです』


 確かに上手い踊りだったが、何の感情が込められているのかまではわからなかった。

 気になったので、窓枠に肘をついて身を乗り出す。


『よくわからないな。どういう気持ちなんだ?』

『嗚呼ボス。今私の心はいろいろな感情に渦巻いております』


 広げた両腕を大きな動きで自分の体に巻きつけ、帽子屋は苦痛なのか悶えているのかよくわからない顔をした。


『とても美しい光景でした。まるで一枚の絵画のような美しさ。それでいてとても危うい、見てはいけないものを見てしまったかのような罪悪感。しかし体中を駆け巡る優越感!嗚呼!私はなんて幸運なのでしょう!』


 どんどんヒートアップしてほとんど踊っているかのように手足を動かす帽子屋を、ジョットは苦笑いを浮かべて眺める。

 とりあえず彼は何かを見て、その時沸き起こった感情を、堪えきれずに踊ることで発散したらしい、

 結局肝心なところは言おうとしないので、ナックルがわけがわからないという表情を浮かべる。ナックルに同意を示す苦笑を浮かべてみせ、カッペッレェリーアに向き直る。


『つまりカッペッレェリーア、お前は何を見たんだ?』

『嗚呼。着る服の選択を間違えたのでしょう。なまえ様のシャツが濡れてもいないのに透けておりましたもので。嗚呼、私が彼女を見たのはもう一時間ほど前なのですが』

『貴様ぁッ!!そこを動くな今すぐ吊るしてやる!!』





 その後、いかれ帽子屋はジョットとナックルにより天井から吊るされ、話を聞き付けた守護者達に左手足、右手足にそれぞれ手錠をかけられ、アーチェリーの矢と日本刀とトランプで磔にされて頭に中華鍋を被せられた。

 新しいオブジェと勘違いされ3時間ほどそのままにされたが、後に気づいたなまえに助けられたという。








朝からはキツイ
それがボンゴレの帽子屋








(皆して何やってるの!)

(しかしだななまえ、このいかれ帽子屋が…)

(帽子屋さんが何したの?)

(い、いや…言わないが……)



* * *

50000打こっそりクイズ企画、3人目の正解者みやち様リクエストの、もしもいかれ帽子屋がボンゴレだったら〜のお話です。
ファビオといい帽子屋といい、オリキャラの話がリクエストされるとびっくりと同時に嬉しいです。
しかし帽子屋……アホだあの人f^_^;
変態というかただのアホな人になりました。いやA2の中ではボンゴレバージョンの帽子屋はアホな人な印象です。
芝居がかった人というイメージがここで出せたかなと満足していますが、こんな感じでよろしかったでしょうか?

お待たせして申し訳ありません!
50000打こっそりクイズ企画、これにて終了です。
ありがとうございました!



A2

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