恋物語番外編 | ナノ


息抜きにいかがですか?


 天気がいいから、とジョットは書類仕事の息抜きにと外に出る。しばらく歩いていたら、敷地内の原っぱに見慣れた濃い茶色の髪の後ろ姿があった。





息抜きにいかがですか?








 なまえはいつもの細身のシャツとパンツという仕事着姿だが、エプロンはつけていなかった。

 よく見れば彼女から少し離れた地面に畳まれて置かれている。風で飛ばないようにするためか、拳大の石が深緑の上にちょこんと載っていた。

 近づいていくにつれて、なまえが何をしているのかわかった。

 彼女の前方約20メートル先には、がっしりとした木。腕を回しても抱えきれないだろう幹に、等身大の人型が描かれた布が貼り付けてあった。

 その人型の的に向かって、なまえが腕をしならせると、ひゅっと風を切る音の後、トン、と右目にあたる場所にナイフが刺さった。

 見た目は銀食器《シルバー》のナイフに似ている。だが刃も柄も、食事の際に使うそれより数インチ長く、柄の尻の部分には穴が空いている。

 その穴に指を通したなまえが、くるんとナイフを回転させたかと思ったら、そのナイフは一瞬のうちに的に突き刺さっていた。

 すでに人型の的には片手では足りない数のナイフが刺さっていて、それが全て人体の急所を正確に突いていることに、ジョットは苦笑を浮かべた。

 すると、なまえがこちらに気づいて振り返った。ますます勘がよくなったな、と思いながら手を振ると、ふわりとした笑顔が返ってきた。


『いいのか?』


 主語のない問いかけだったが、なまえにはわかったらしく笑顔で頷いた。


『大丈夫。許可取ったから』


 先日のパーティで右手に怪我を負ったなまえは、屋敷での仕事ではなるべく右手を使わない、戦闘訓練はGと雨月の二人の師の許可を取ってから、と厳しく言われていた。

 右手は日常生活には問題ない程度まで回復していたが、戦闘訓練にはまだ早いのではないかとジョットは思っていた。

 だがGと雨月が許可を出したのなら大丈夫だろうと納得する。


『無理はするなよ。それにしても、相当腕を上げたようだな』


 なまえの手の中にあるナイフを取り上げて、指先でくるくると回しながらジョットは笑う。

 鋭い刃のナイフは見た目に反してとても立派な業物だ。その質量は普通の銀食器よりずっと重い。

 こちらに来たばかりなまえだったなら、木に届きもしないだろう。


『皆が稽古つけてくれるから。速く動けるようになったし、ナイフ捌きも堂に入ってるってGも雨月も褒めてくれるようになってきたんだよ』


 嬉しそうにそう言うなまえの頭を、無意識に撫でてしまう。

 空いた時間に、師である二人以外の守護者や警備班に稽古の相手を頼んでいるらしく、マフィアに相応しい戦闘能力をみるみるうちに上げていく彼女を見ていると、微笑ましい反面、心配にもなる。


『ねぇジョット』

『ん?』


 ふわりと微笑んだなまえは、ナイフを逆手に持った両腕をジョットの前に突き出して見せた。これが彼女の接近戦の時のスタイルだ。





『もっと頑張って、早くジョットを守れるようになるからね!』





 輝くような笑顔に、とくん、と心臓が跳ねた。

 守ってやりたいといつも思っている彼女が、自分を守りたいと頑張っている。

 それがこんなにも嬉しいなんて、知らなかった。





『なまえ。俺が相手をしてやろうか?』


 くすりと微笑んで告げた提案に、なまえは顔を輝かせた。


『うん!お願いっ!ハンデはくれるよね?』

『仕方ないな。グローブはなしで、左手一本で相手をしよう』


 いつもつけているグローブを外し、なまえのエプロンが置いてある場所の近くに、脱いだスーツの上着と共に置いて、その上に石を載せる。

 なまえに向き直ると、髪の毛を後ろでひとつにまとめた彼女の、マホガニーの瞳が悪戯っぽく光っていた。



『ねぇジョット。…勝っても、いいよね?』



 自分からハンデが欲しいと言っておいて、そんな軽口をたたいてくるなまえにおかしくなる。





『いい度胸だな。……いくぞ!なまえ!』





 にやりと笑顔を返して、ジョットは軽やかに地を蹴った。








息抜きに手合せはいかがですか?







(申し訳ありませんでした……)

(てめぇが怪我させてどうすんだよ)

(G、雨月…。私が勝手に滑って転んだだけでジョットは悪くないの。怪我だって擦り傷だし…)

(なまえが転ぶ前に止められなかったことが悪いのでござるよ。わかっているでござろう?プリーモ?)

((うわー雨月さん笑顔で怒ってるんだものね……))





* * *

30000を踏んでくださったリオ様リクエストの、恋物語番外編ジョットほのぼの夢です。
ほのぼの、してるといいんですがどうでしょう?
A2は手合せのために上着を脱ぐジョット様を想像してうへへってなります(^ω^*)
最後の方で守護者が出てきていますが、ジョット様はきっとお怒りの雨月さんに正座させられているんじゃないかと思います。

リオ様こんな感じで大丈夫でしょうか?
また機会があればリクエストしてください!
リオ様のみお持ち帰り可です。


A2

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