あと一歩なんてものじゃない 3
『あ…』
『痛むか?』
心配そうに問われて、なまえはゆるゆると首を振る。傷跡は残ったが、痛みはもうない。
『くすぐったかっただけ』
『そうか…』
ジョットは安心したように笑むと、なまえの掌に唇を寄せる。正確には、まっすぐに伸びた傷に。
自分を庇ったがためについた傷を、慈しむかのように撫でる唇は火傷してしまいそうなほど熱い。
『ジョット…離して…』
『なぜ?』
傷に触れたまま問い返されて、なまえは顔に熱が集まるのを感じながら手を引いた。
『手…汚い、から…』
『どうして…?風呂上がり、なんだろう?』
もう一度強く手を引くと、ジョットの手が離れ、ぎし、と馬車の座席が軋んだ。
そのことにはっとする。酔っ払いが3人乗っていた馬車の中は、ずっと酒の匂いが満ちていたのだ。
顔を上げると、ジョットがうつむいていた。先ほどより、顔の赤みが増したような気がする。
『そういうこと、言わないで…』
『…ん。自分で言って…俺もそう思った…』
甘い痺れが、全身を襲った気がした。
早くここから出なくては、と思った。
このままここにいれば、言ってはいけないことを…言ってしまいそうになる。
風のない無音の夜。甘すぎる香りがこもる馬車の中で…それだけは、わかった。
あと一歩なんてものじゃない もはやゼロ距離、でも踏み出せない
(『そういうこと』を、言ってしまうのはなぜなのか…)
(『酔い』の力を借りて言っても、きっと後悔する…)
* * *
8888番を踏んでくださった絢様リクエストの恋物語番外編の、ジョット様で甘々です。 思いっきりあまーくとのことだったんですが、恋物語の主人公とジョットさんは本編では現時点でまだ恋人同士ではないし、主人公に至っては自分の気持ちがわかってないので、甘々は書けるのか?思いました。 恋人同士になってから書こうかとも思ったんですが、それだといつになるかわからないので、今の時点の限界までの甘々に挑戦しました! ぎゅっぎゅしてるんで糖度は結構高いと思うんですがどうでしょう? そういうこと言っちゃう二人と自分で言った言葉に撃沈するジョット様が書いてて楽しかったです♪
小説もあとがきも長くなりましたが、絢様のみお持ち帰り可です。 リクエストありがとうございました!
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