手紙の中のアミーコ 2
オレンジ色の瞳でじとりと睨まれて、なまえは乾いた笑みを浮かべる。
『あはは…。読んじゃった?』
『読んじゃった?じゃないだろう。見覚えのある字だからまさかと思ったら…』
ジョットはなまえの腕を離して手紙を返したが、不機嫌そうな表情は変えないままテーブルに肘をつく。
ジョットの頭に浮かぶのは、赤い髪の親友の笑顔。ここ数年手紙のやりとりしかしていなかったが、まさかなまえに手紙を送るとは予想もしなかった。
コザァートのことだからなまえをからかっているとかではなく、手紙に書いていたことは本心なのだろう。
けれど内緒で交流されたら困る。
親友なのだからわかる。コザァートは手紙だけでもその人の好さがわかってしまう。
『それで、俺に内緒で返事を書いていたのか?』
なまえが腕の下に敷いていた便箋を見て問うと、まるで悪戯が見つかった子供のような顔を向けられた。
嫌な予感がした。
こういう顔をする子供は、たいてい悪戯をやってしまった後なのだ。
『コザァートさんから、もう3通手紙をもらってるの』
『なっ…』
『今書いてたのは、3通目のお返事で…』
最初にもらった手紙を読み返してるうちに寝ちゃってて、ともごもご言うなまえに頭を抱える。
『いくら俺の親友だからって、見知らぬ男に手紙の返事を書くなよ…』
『や、もちろんジョットに確認してもらうつもりだったんだよ!でもGが『間違いなくジョットの親友だから返事くらい書いてやれ。面白いからジョットには黙っとけ』って…』
あのやろう…。
もう一人の親友である幼馴染の顔を思い浮かべて心の中で毒づく。
なまえがエプロンのポケットからコザァートから届いたと思われる残り2通の手紙を取り出す。
宛名に書かれたなまえの名前が、間違いなくコザァートの字で、ジョットはひったくってしまいたい衝動をなんとか抑えた。
その2通の間に挟まっているものが視界に入った瞬間、ジョットはテーブルに手をついて身を乗り出した。
『これ、まさかっ!』
『あ!ダメ!』
なまえが隠す間もなく、ジョットは目当てのものを抜き取った。
やはり、とジョットは眉を寄せた。
ジョットの手の中にあるのは、コザァートと二人で写った写真だった。自警団を設立する少し前といったころだったはずだ。
赤い瞳を細めてふわりと笑うコザァートと、写真機を直視するのが照れくさくて目を逸らして口元が歪んでるとしかいえない、微妙な笑みを浮かべている…今より少し若い自分。
懐かしさに顔が綻びそうになったジョットだが、慌てて口元を引き締め、なまえをじとりと見る。
しゅんと項垂れたなまえは小さく『ごめんなさい』と呟いた。
『別に怒ってはない』
『嘘。ジョット顔怖いよ』
『怒ってるわけじゃない』
『そうは、見えない…』
『俺はっ!』
言いかけて、口を噤む。
俺はお前から、手紙なんてもらったことがない。
『ッ…』
それは当然だ。なまえは俺の近くにいる。
同じ屋敷に住んでいるのだから、手紙なんて書く必要はない。
それはわかっているのに、なまえが初めて手紙を書いた相手がコザァートなのが…否、自分でないことが腹立たしいのだ。
『勝手だな…』
『ジョット?』
聞こえないように呟いて、未だ悲しそうに眉を下げているなまえを見る。
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