恋物語番外編 | ナノ


彼女を探して 2







 屋敷内の家事をするために雇っておきながら、なまえが普段どんな仕事をしているのか漠然としかわかっていなかった自分に気付く。

 さてどこを探したものか、と顎に手を当てて考えていると、踊り場に緑色の巻き毛の青年を見つけてジョットは軽く目を細めた。


『ランポウ』


 名前を呼ぶと、緑色の髪の雷の守護者はびくっと肩を震わせて上から降りてくるジョットを見上げた。


『ボ、ボス…』


 ばつが悪そうな表情を浮かべるランポウに、ジョットは呆れた眼差しを向けてやる。


『お前の仕事は部屋から出る余裕もないほど溜まっていたはずだが?』

『ちょ…ちょっと息抜きしてたんだものね。そしたらなまえが、洗濯物が多くて大変そうだったから手伝ってあげてたんだものね』


 慌てて言い訳をするランポウをじとっと見て、ジョットは溜め息をつく。


『お前は昨日十分サボっただろう。…まぁいい、なまえを探してたんだ。どこにいるって?』

『雨だから部屋干し用の大部屋に行くって言ってたんだものね』

『わかった。ここにいたことは見逃してやるから早く部屋に行け。そろそろGがちゃんとやってるか確かめに来るんじゃないか?』


 それを聞いて慌ててすっ飛んで行くランポウを、肩を竦めて見送ってジョットはなまえが部屋干し用と決めている大部屋に向かった。





* * *





『うおっ!』


 ドアを開けると布布布。

 30畳はある大部屋の中に干された洗濯物を見てジョットは思わず口を開けた。

 シーツにクッションカバー、タオル、そしてジョット達のシャツ等が綺麗に並んでいる。

 人数が少ないので洗濯物などそんなにないだろうと思っていたのだが、ジョットの予想よりそれは多かった。

 確かにベッドのシーツはいつも取り替えられているし、なまえに渡した洗濯物はその日か次の日には必ずクロゼットに戻っていた。





 洗濯も、なかなか大変なんだな…と思いながらジョットはドアを閉める。


 ここにもなまえはいなかった。

 こんなにもなまえが動き回っていると思っていなかったジョットは、今度はどこを探したものかと肩を落として廊下を歩き始める。

 すると廊下の先から輝くプラチナブロンドの青年が歩いてくるのが見えたので呼び止める。


『アル』


 アラウディは軽く片手を上げるジョットを目に留めて眉を片方跳ね上げた。

 足を止めた彼は片手にトレイを持っていて、意外そうにジョットを見る。


『なんだ、屋敷の中にいたのかい?』

『? どういうことだ?』

『昼食に出てきていなかったからね』


 それを聞いてジョットは慌てて懐中時計を取り出す。いつの間にか昼を回っていた。

 驚いて天井を仰ぎ見た後頭を下げると、アラウディが持つトレイに載っているものにジョットは目を留めた。

 トレイの上にはアラウディにしては珍しく紅茶が入ったカップと、カットされた林檎が置いてあった。


『その変な形の林檎はなまえが剥いたものか?』


 変なと言われてアラウディの眉が一瞬ぎゅっと寄ったが、ジョットは気にせずアラウディに詰め寄る。


『なまえは食堂にいるのか?』

『いたよ。食事の用意は彼女の仕事だろう』


 当然の回答に頭を抱えたジョットは、アラウディへの挨拶もそこそこに食堂に向かって歩き出す。





 最初に食堂に行った時にそのままそこにいればよかったのだ。

 だが今更そんなことを言っても仕方がない。





 食堂のドアを開けるとふわんと良い香りがして、そこではアラウディとランポウ以外の守護者が席について食事を取っていた。 

 つかつかとテーブルに歩み寄ると 雨月がジョットに気づいて顔を上げる。


『なまえは?』

『なまえでござるか?食事の用意を終えたらすぐ出て行ったでござるよ』


 もう何度目かわからない空振りにジョットは崩れ落ちそうになる。

 その様子を見て、フォークにパスタを巻きつけながらGが呆れた声を出す。


『まだ会ってなかったのか?』

『今日の俺は運が悪いらしい』


 Gを一睨みして出て行こうとすると、雨月がきょとんとした顔をジョットに向ける。


『プリーモ、食べないのでござるか?』


 振り返って自分の席を見るとバジルとトマトのパスタと肉料理、サラダが載った皿が並びスープはまだ湯気を立てていた。




 腹の虫が小さく鳴り、ジョットは少し逡巡した後、屈した。








『食べる』