隣見れば、蒼穹 2
地面の上に直接腰を下ろしたGは短く息を吐く。
自分がただの臆病者になったようで嫌になる。
ただ、笑っていてほしい。
人を殺した自分が彼女の前に立つには、あと数分時間が必要だった。
なのに、
『いた』
『う゛おっ!』
げしっと背中を蹴られ、衝撃で体が前に倒れる。
首だけで振り返ると、未だ自分の背中に乗る足がまず見えた。
視線を上にずらしていくと、細身のパンツと薄いシャツ姿の幼馴染が、不機嫌そうな表情を浮かべて立っていた。
オレンジの瞳は、Gと視線が合うと呆れたように細められる。
なんとなくばつが悪くなって、Gはジョットから目を逸らす。
『なんだよ?』
『探しに、きて、みれば、お前の、なんとも、ちゃちな、背中が、あったんでな』
『……そりゃ、悪、かった、な…』
言葉を区切るごとに背中を踏む足に力が入り、体がその度に小さく揺れる。
ジョットはGの顔をまじまじと見て片方の眉を跳ね上げ、足を下ろす。
『気持ちはわかるがもう少し上手くやれ。お前の馬が戻ってきているのに、肝心のお前がいないとなまえが騒いでる』
それを聞いてはっとする。
逃げたスパイを追いかけた際に馬には相当無理をさせたので、早く休ませてやりたくてすぐ厩に入れたのだ。
頭を片手で抱えると、ジョットは呆れたように微笑んでくる。
立ち上がり、尻についた草を手で払って顔を上げると、月明かりに反射して輝くジョットの金髪が視界に入る。
オレンジ色の瞳が一瞬申し訳なさそうに揺らいだが、ジョットは何も言わなかった。
それでいい、とGは思う。
マフィアのボスとして右腕に命じたことを、この幼馴染は謝ったりしない。
それはボスとしてのジョットにとっても、右腕としての自分にとっても必要なことだった。
『お前だけが背負っているわけじゃないだろう』
ぽつりと落ちるような言葉に、Gは真紅の瞳を瞬かせる。
長い付き合いの幼馴染は眉を下げ、労うようにGの肩を叩く。
『今度そんな顔になったら、なまえに気付かれないように俺に会いに来い』
彼女には見せられない、ボンゴレの業。
それをその身に背負うボス。ボンゴレプリーモ。
『話をしてもいい。しなくたっていい。落ち着いたら、2人でなまえに会いに行けばいいんだ』
同じ業を背負うと決めた。
選んだ道が本当に正しいものだったか、迷ってしまうこともあるけれど。
それでも、この幼馴染に、このボスに会えば…。
『ま、考えとくぜ』
『素直じゃないな』
『足蹴にされたからな』
『根に持つ気か?』
『どうだろうな』
自分の選んだ道に、後悔なんてないと思えた。
* * *
屋敷へ続く道の先から、ちらちらと揺れる灯りを見つけて、ジョットは眉を寄せる。
『きっとなまえだ。外は俺が探すからと言ったのに…』
月と星が明るいといってもすっかり夜は更けている。
急かすように腕を引かれ、Gは仄かな灯りを目指して歩き始める。
大空の隣に立つにふさわしい、右腕の顔に戻って…。
隣見れば、蒼穹
(G!スーツに足形が!昨日仕上がったばかりのオーダーメイドの一級品なのに!)
(あー…これはな…)
(なまえ。コーヒーが飲みたいな。淹れてくれるか?)
(自分がやったって言えよ。おいジョット!逃げんな!)
999番 チカゲ様リクの恋物語シリアス番外編です。 主人公…ほとんど出てこなくてごめんなさい(土下座) 時間軸的には日常編ですね。 ジョット様とG様の友情っぽくなりましたが…こんなもので申し訳ありませんっ。 リクエストありがとうございました!
A2
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