恋物語パーティ編 | ナノ


マリンブルー ピットフォール 1


マリンブルー ピットフォール








(心配なさそうだな…)


 会場に流れる曲が明るいものに変わり、今度はランポウと踊り始めたユキを見てGは口元をわずかに緩めた。

 ジョットの妻の座を狙う娘やその母親達から送られる視線は厳しいものの、そういう考えを持っていない招待客の中には美しくイタリア語も堪能なユキに感心する素振りを見せる者も現れ始めた。

 尤も、彼らの視線が和らぎ始めたのにはユキと一緒にいるジョットの様子も関係している。


(あいつ、楽しそうにしてやがる)


 ランポウにダンスの相手を奪われて最初はむっとしていたジョットだったが、振り回されるように踊るユキを眺めている姿はとても楽しそうだ。

 招待客のほとんどは、ジョットがここまで楽しそうにしている様子など見た事が無いのだろう。


『……様。 G様?』

『! あぁすまない。報告はわかったが、対応は今までどおりで大丈夫だ』


 部下の怪訝な声にGははっと我に返る。

 緊急な報告を持ってきた部下の話を聞いている最中だったのだ。


『かしこまりました。あの、それとは別に…緊急というわけではないのですが…』


 言いよどむ部下に、言ってみろと促す視線を向けると、部下はちらりとダンスをする緑色の髪の青年を見る。


『ランポウ様のご実家のことですが…いつまで野放しにしておくつもりですか?』

『あぁ、それはランポウに任せてある。確かに大地主の権力を笠に好き放題やっているようだが、今のところボンゴレにはたいした悪影響は無いからな』


 しかし…と口ごもる部下はランポウ付きではないが、我侭で臆病なランポウのことをよく思っていないようだった。尤もそれは上に立つものとしての振舞いができていないランポウが悪いのだが。

 Gは溜め息をついて、真紅の瞳を細めて部下を見据える。


『ボンゴレに影響が出ると判断したら、ランポウが嫌がろうがプリーモは動く。お前はボスの決めたことに納得がいかねぇのか?』

『い、いいえっ!とんでもありません!』


 慌てて顔を伏せた部下に手振りで下がるように示すと、部下は恐縮しきって去っていく。


 やはりランポウにはもう少し厳しくするか、と考え始めた時、すっと自分の隣に人が立つ気配がした。


『そう。確かにボンゴレプリーモは組織のリーダーとしての能力には長けている』

『キャバッローネ…』


 今回のパーティの主催者であるキャバッローネファミリーのボスが立っていた。

 少し白いものが混じってはいるが、輝く金髪と鳶色の瞳、整った顔立ちから滲み出る堂々たる威厳。

 自分と同年代の子供がいるとはとても思えない紳士の姿に、Gは相変わらずだな、と感服した。


『だが、どんな素晴らしいリーダーも相応しくない女を傍に置くだけで職務に影響が出るというもの。そうは思わないか?G殿』


 強い光を湛える目に見据えられ、Gは唇を引き結ぶ。

 まさかジョットがいないところで、こんな単刀直入に本音を言ってくるとは思っていなかった。

 やはりキャバッローネは、ユキの存在はジョットにとって悪影響だと考えているらしい。


『だがユキ様…と言ったかね。彼女は想像より素晴らしい女性だ』