アンバー ウーマンズ ウォー 1
アンバー ウーマンズ ウォー
ユキが選んだのは琥珀色のふくらみの少ないドレスだった。
フリルやレースはほとんどなく、飾りといえばスカートの片側に大きくとられたドレープのみだ。
だが金色の糸で刺繍が施されたドレスは動く度にきらきらと光る。
高い位置で結い、巻いた毛先を背中に垂らしたユキは、姿見の前に立ち最終点検をする。
ボンゴレと同盟ファミリーのトップが集うパーティに自分のようなものが参加していいとは思えないのだが、行くことが決定している以上格好だけでもきちんとしていかなければ。
皺やズレがないか念入りにチェックしていると、ドアが数回ノックされる。
返事をすると同時に開けられたドアから、アッシュグレイのスーツに身を包んだGが入ってくる。
普段はマフィアらしく黒いスーツを着用している彼だが、明るめのグレイは赤い髪とよく合っていた。
Gはユキを視界に入れた途端動きを止めたが、すぐにはっと我に返り頭を掻く。
『いい女に化けたじゃねーか。ユキ』
皮肉ともとれるGの褒め言葉を、ユキは素直に笑顔で受け取った。
『ありがとう。ジョットもそう言ってくれるといいんだけど』
『その辺は心配無用だ。準備ができたなら移動するぞ』
ジョットと他の守護者達は、会場であるボンゴレ本部に先行している。
本人には知らされていないが、ユキの心象を少しでも良くしようと招待客に働きかけているのだ。
雲の守護者であるアラウディは当然そんなことはしないのだが、過去ボンゴレのパーティに一度も参加したことのない彼が会場にいる時点で相当ユキのことを気にかけているのがわかる。
差し出されたGの腕をとって、ユキは玄関へと向かう。
馬車に乗ってボンゴレ本部へ向かうために。
きっと今回の参加者の誰よりも美しいであろうユキを横目で見ながら、Gは戦場へ行くより憂鬱な気持ちになりながら、階段を下った。
* * *
『まぁこちらがユキ様ねなんて美しい方なんでしょう異国の方なんですってねジョット様は珍しいものがお好きですものねぇ久しぶりのパーティだとはいえこんな戯れに付き合わされてユキ様もお困りでしょう?もしこの場にいるのがお辛いようでしたらわたくしがいつでもお力になりますからね』
ビルボファミリーボス夫人と紹介された40代と思われる女性の、いつ息継ぎをしたのかと思うほどの矢継ぎ早な言葉に、ユキは一瞬目を丸くした後慌てて笑みを作った。
早口なイタリア語などわからないだろうと思って喋ったのだろうが、ユキにはしっかり聞こえているだろう。ユキを称賛し気遣うような言葉を並べていたが、歓迎されていないことがよくわかる言葉だった。
彼女と、娘だというユキより少し下と思われる2人の娘のちくちくとした視線を、ユキが貼りつけたような笑顔で受けているのをGは視界の端で捉えていた。
『はじめましてビルボ夫人、カルロッタ様、ルイゼッラ様。お気遣いありがとうございます。このようなパーティに参加させていただくのは初めてなので至らないところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします』
滑らかなイタリア語を話すユキにビルボ夫人とその娘達は目を丸くし、横に立つGはあさっての方向を向いて笑いを噛み殺した。
ビルボ夫人はほうれい線の目立つ口元をぴくぴくと震わせ、なんとか笑みの形を保っていた。
だが娘の方はそこまでの余裕がないのか、ユキの視線が夫人に向いているのをいいことに無遠慮にユキを睨みつけている。
これまでジョットには星の数と言っていいほどの縁談があった。
同盟ファミリーの中でも、勢力の強弱はある。よってボンゴレのボスとの確固たる結びつきを望む者が多いのは当然のことだった。
今までは忙しいから、とか考えられないから、とかはたまた面倒臭いから、といった理由でのらりくらりとかわしてきたジョットだったが、我が娘をボンゴレプリーモの妻にと望むマフィア関係者は年々増える一方だ。
親からそれを望まれる娘達にとっても金髪の、若く美麗なイタリアンマフィア最強のボンゴレのボスとなれば乗り気になるのも無理はない。強面で荒っぽいマフィアは見飽きている彼女達にとって、ジョットは貴族か王子様にでも見えるのだろう。
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