恋物語パーティ編 | ナノ


カクタス サブジュゲーション 4








『プリーモ。この暗殺者は我がキャバッローネのもの。私があの娘を貴方から引き離すためにけしかけた男です』

『『なっ!!』』

『やめろG、ナックル』


 声を荒げる2人の守護者を制したジョットは、傍に控えた部下と暗殺者と共に片膝をついているキャバッローネを静かに見下ろした。

 キャバッローネが硬い声で事の次第を語るのを聞いていても、不思議と怒りは湧いてこなかった。

 こんなことを計画するほど、彼を悩ませたのは自分の失敗だ。だがこの計画によって、状況は一変したのだ。





『あいつは俺に忠誠を誓ったんだ。キャバッローネ』





 叱責が来ると思っていたキャバッローネと暗殺者は、驚いたように軽く目を瞬かせた。

 ジョットはいろんな思いが頭の中を巡るのを感じていた。

 俺はキャバッローネに一服盛られたんだな、とか。アルの奴出てきたと思ったらもう消えたのか、とか。










 俺が愛した女は…こんなに凄い奴だったのか、とか。










『あいつを拾ってから、俺達とあいつの間ではこれでもいろいろあった。あいつは悩み抜いた結果俺に忠誠を誓い、俺はその覚悟を受け入れた』


 ジョットはふわりと微笑んで腰を屈め、キャバッローネに向かって手を差し出した。


『あいつは俺の女じゃない。まだ俺の片想いなんだが……凄い女だろう?』


 そこで堪え切れずにジョットは片手で顔を覆って笑い始めた。

 そんな彼を呆気にとられて見上げたキャバッローネは、苦笑して若い友人の手を取った。


『私は、貴方をあの娘に惚れ直させてしまったというわけですか…』


 その言葉を聞いて、ジョットは笑いながらキャバッローネに寄りかかった。





 まさにその通りだった。

 強くて、弱くて。賢くて、馬鹿で。

 美人で、可愛くて、ダンスが少し下手で。

 だけど、そんな彼女はキャバッローネの暗殺者からジョットを守ってみせた。





『あんたはユキの中に眠っていた何かを起こしたらしいな』


 苦笑したGが、キャバッローネから未だ笑いが止まらないらしいジョットを受け取る。

 キャバッローネは困ったように微笑んで暗殺者を支える部下と共に、静かに礼をとった。


『プリーモ。我々キャバッローネは、風のごとく貴方をお守りしたユキ様を心より尊敬申し上げます。
 このような真似をしたこと、許されるとはもとより思っておりません。どうぞいかようにも処分を…』

『ああわかった。煮るなり焼くなり考えるさ。近いうちに屋敷に行ってやる』


 そう言ってGに支えられたジョットは、笑いながらさっさと行けとキャバッローネに向かって手を振る。

 キャバッローネと暗殺者と部下達がその場から辞すると、ジョットはゆっくりと振り返る。

 いつの間にかアラウディもいて、守護者が全員揃っていた。

 誰ともなく歩き始めると、ランポウがはしゃいだ声を上げる。


『つまりキャバッローネはユキをマフィアとして認めたってことなんだものね!』

『まぁあれを見れば認めざるを得ないだろうな』

『究極によかったではないか!』

『いいわけないよ。ユキにあんな怪我させて、ボス失格なんじゃないのかい?』

『そこについては私も同意見です。しかしキャバッローネもなめた真似をしたものです。プリーモ、彼らの処遇については私に任せて下さい』

『今回の件はユキについての申し開きを先送りにした俺達にも原因はある。ちゃんと考えるから俺に任せてくれ』

『全く…貴方も甘いですね。まぁいいでしょう』

『よかったでござるな。ジョット』


 雨月に珍しく名前で呼ばれて、ジョットは少し目を細める。

 隣に並ぶ雨月はとても嬉しそうな微笑みをジョットに向けていた。


『ユキは、きっと化けるでござるよ。お前の傍に置くに相応しい、ボンゴレの女になるでござろう』




 ユキがあれだけの資質を持っているなど、誰も想像していなかった。



 それを彼女はこのパーティで、キャバッローネだけでなくボンゴレ上層部と同盟ファミリーのトップ全員に見せつけた。

 刺されたというのにジョットを心配し、手に穴が空いたばかりだというのに目覚めればもう笑っている。





 あれほどの女は、一生に一度出逢えるかどうか。





 ジョットは微笑んで雨月の肩に手をかける。


『あぁ。名実共に俺の女にする。応援しろよ?雨月』

『もちろんでござる』

『おやおや。盛り上がっているところ失礼ですが、私もますます彼女に興味が湧いたもので、本格的に口説きに掛かろうと思っているのですが』

『前に言ったよね。君らに渡すくらいなら僕が持って帰るって』

『待てアル。その時は俺は含まれてなかったはずだぞ』

『知らないね』

『勝手にやってろ。俺は先に帰ってるぜ』

『待てG!そっちは医務室だろう。俺が迎えに行くとユキに言ったんだ』

『誰が行っても一緒だろうが』


 軽口を叩き合いながら、ボンゴレのボスとその守護者達は結局全員で医務室へと向かう。





 マフィアの女としての資質の片鱗を見せた、本日の主役を迎えに行くために。











(ユキ!帰るぞ!今日は究極に祝勝会だ!)

(え?何に勝ったの?)

(帰ったら説明する。とりあえず帰ろう。我が家へ)










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