恋物語パーティ編 | ナノ


カクタス サブジュゲーション 2







『拾われた分際で無礼な女!汚らわしい!卑しいおん『黙りなよ』


 静かだがよく通る低い声が響いた途端、ビルボ夫人が白目を向いて後ろに倒れた。


『アル…』


 いつの間にか夫人の後ろに立っていた人影に、ジョットは目を見開く。

 パーティに参加すると言っていながら今まで姿を見せなかった、プラチナブロンドと青い目の青年・アラウディだった。

 いつもとは違う、パーティに相応しいモスグレイのスーツとワインレッドのネクタイという正装だ。

 ビルボ夫人の首には彼の武器である手錠が嵌っていた。手錠で首を一気に締め上げたらしい。


 なんという無茶を…という顔をジョットが向けるのを気にした様子もなく、アラウディは気絶させた女が自分に寄りかかるようになっていることが不快らしく、眉を寄せてビルボ夫人を突き倒す。

 床に倒れた母に、娘2人が短く悲鳴を上げて駆け寄った。


『ア、アラウディ様!なんということを…』


 上擦った声を上げたのは、ビルボファミリーのボスだった。

 マフィアのボスとは思えないほど気弱そうな顔をした男は、妻を気絶させたアラウディに声をかけたものの、二の句が継げずにいるらしい。

 そんな男を、アラウディは一瞥する。


『妻の言動はそのまま君の評価に繋がる』


 冷たい言葉にごくりと生唾を飲み込んだ男から、アラウディは興味をなくしたように視線を外した。





『君の器は知れた。これ以上恥を曝す前に、消えなよ』





 崩れるように膝をついた男の横を通り過ぎて、アラウディはジョット達のもとへと歩み寄る。

 ジョットがアラウディに力なく笑って見せると、アラウディは形の良い眉を寄せた。


『なんて顔をしてるんだい?』


 その言葉に、ユキの怪我に気を取られていたGはジョットの顔色を見て眉をきつく寄せる。

 血の気のないジョットの顔色は、ユキの怪我だけが理由ではなさそうだ。

 ジョットはGとアラウディを交互に見てから、ゆるく首を振る。


『わからない。だが、俺のことよりユキだ。大丈夫なんだろうな?』

『血管や神経の損傷具合による。…勝手にナイフを抜きやがったからな』

『それが最良の方法だと悟ったからでしょうな』


 後ろから聞こえた声に、3人は一斉に顔を向ける。

 キャバッローネセコーンドが、その鳶色の瞳を静かにいつの間にか気を失っていたユキに向けていた。


『プリーモを狙った男を確実に仕留めるには素手では力が足りない。 だが自分は武器になるものを持っていない。だから刺さったナイフを抜いて使うしかない。
 ……一瞬で、それを判断したということでしょう』


 平静を装ってはいるが、キャバッローネは驚きを隠しきれていなかった。

 実際ジョットも守護者も皆驚いていた。

 自身が傷を負っているにも関わらず、あのような判断をし、反射レベルで実行するなど。





 まるで…





『一端のマフィアではありませんか。プリーモ…』





 動揺しているキャバッローネをジョットは不思議そうに見つめたが、Gに腕を引かれて我に返る。


『ユキを医務室に連れて行くぜ。お前も来い、酷い顔だ』


 ユキを横抱きに抱えたGの後を、ジョットはナックルに肩を貸してもらって追う。

 だが、会場を出て人のいない廊下にさしかかったところで、すとんと気を失った。