シグナルレッド ブラスト ア ウィンド 3
『ジョット!!』
甲高い声と同時に、いつ聞いても眉を顰めたくなる肉を貫く鈍い音。
だがキャバッローネは信じられない思いで目の前の光景を見ていた。
友人・ボンゴレプリーモの顔がみるみる青白くなってゆく。
『ユキ……?』
ぽた、ぽた…と赤い滴が汚す。
琥珀色のドレスに、真っ白な手袋に、鮮血が染みを作る。
誰もが驚いて彼女を見ていた。
キャバッローネも、暗殺者も、ジョットも、ただ目を見開いて彼女を見ていた。
暗殺者のナイフは、ユキの右手を深く貫いていた。
* * *
暗殺者は一瞬狼狽えた。
彼はジョットとユキの眼前まで接近していた。
だが相手はボンゴレプリーモ。万全を期すために彼は、ナイフを突き刺す瞬間は己が有する最高の速度を持って実行した。
一般人の娘に止められるなど、考えられなかった。
『あ゛ぁっ!!』
暗殺者が動きを止めたその一瞬で、全てが決まった。
彼のナイフを己の手で止めた娘は、無事な方の左手で躊躇うことなくナイフの柄を握り引き抜いた。
赤く生温かい鮮血が、ぱっと飛び散る。
ドレスを己の血で汚した娘は、痛みを感じていないのかぎらぎらと光る目で暗殺者を見据えた。
それは彼が何度か目の当たりにしたことのある“怒り”だった。大切なものを傷つけられた、怒り。
娘のマホガニーの瞳が燃えているような錯覚を、暗殺者は起こした。
ボンゴレプリーモが放つようなオレンジ色の炎を、見たような気がした。
ナイフを引き抜いたその手が側頭部に叩きつけられて、暗殺者は糸が切れた人形のごとくその場に崩れ落ちた。
全ては…一瞬の出来事だった。
(ばかな…。このようなことが…)
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