シャンパン トゥインクル トゥインクル 2
『疲れていないか?』
ユキの手をGから受け取り、彼が離れていくとジョットは心配そうな顔でユキを覗き込んだ。
まだ始まったばかりなのに、と吹き出してしまいそうなのを堪えて笑顔を返す。
ユキが首を振ったのを見て安心したように相好を崩したジョットは、ボーイを呼んで飲み物を持ってこさせた。
『酒じゃない方がいいだろう?』
『うん。Gにも最初のシャンパン以外は飲むなって言われてるから』
グラスを渡されると、ジョットの瞳と同じオレンジ色のジュースが入っていた。
ユキのドレスと同じ琥珀色の酒が入ったグラスを掲げたジョットは、ふっと微笑んでユキのグラスにこつん、とあてる。
『Salute《乾杯》』
『Salute』
ごくりと一息にグラスを空けるジョットを見ていると、自分と同じようにジョットに見惚れる視線があちこちにあることに気づく。
できるだけさりげなく辺りを見回すと、頬を紅潮させてジョットに見惚れる少女の姿がざっと6人。まるで王子様でも見るような目でジョットを見つめている視線の中には、パーティ前に挨拶したビルボファミリーの娘の1人の姿もあった。
睨まれることは間違いないので、彼女達と目を合わさないようにして視線を戻すと、ジョットの不思議そうな顔が目に映る。
端正で綺麗な人だと、ユキはジョットを眺める。
唐突に、当然であるはずの、それでいて今まで具体的に考えもしなかった疑問が頭に浮かんだ。
『もしかして…ジョットってすごくもてるの?』
突然の質問に、ジョットはきょとんとした顔をした後、にやりと微笑んだ。
『さぁな。お前はどう思う?』
あーむかつくほどかっこいいなぁと考えていたユキは思わぬ切り返しにぎょっとする。
みるみる頬を真っ赤に染めるユキに、ジョットはくっと笑みを零す。
『家族がマフィアなんてやってるとごつくて荒っぽいのとばかり関わるから、若い俺達が珍しいんだろ。特に俺はボスだしな』
『へぇ…。ジョットは恋人とかいないの?』
『いたら一度くらいは会ってるはずだろ』
それもそうか、と思う。
あの屋敷はジョットの自宅なのだ。恋人がいるなら連れてきてもおかしくはない。
(あれ…? 私、ほっとしてる…?)
自分から訊いておいて、恋人がいないと聞いて安心している自分に驚く。
(いや、いたら屋敷で働くのに気まずいから…かな?)
『どうした?』
『へっ?いや…寂しくないのかなって。恋人いなくて』
まぬけな質問だ。
言ってすぐ後悔したが、ジョットは気にした様子もなくふわりと微笑んだ。
長い指がユキの髪をさらりと撫でる。
『寂しくないさ。お前がいるからな』
『ふぇっ!?』
顔が、火がついたように熱くなる。
ジョットに頭を引き寄せられ、思わず伏せた瞼に柔らかい感触を感じる。
そうだ。私は今この人のパートナーなんだ…。
『ユキ。お前はここにいる誰よりも綺麗だ』
今度はちゃんと言えた。
そう言って微笑む彼を、ユキは否定したくてたまらなくなった。
貴方の方がずっと綺麗だと、言いたくなった。
きらきら輝いている、私のボス。
けれど、何も言わずに彼の言葉を受け、ユキは微笑みを返した。
そう言ってくれて、とても…とても嬉しかったから。
(よし、踊ろう)
(えっ!?ちょっと待って自信ないよ!)
(練習したんだろ?)
(3時間だけだもん!)
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