恋物語パーティ編 | ナノ


アンバー ウーマンズ ウォー 2







『ジョット様はパーティ前でユキ様のお相手ができないくらいお忙しいようですわねぇ。そういえばG様は本日のパートナーはお決まりですの?』


 考えに耽っていたGはビルボ夫人の矛先が唐突に自分に飛んできたことにぎょっとする。

 どうやら2人いる娘のうちの1人は守護者の誰かにと思っているらしい。

 Dやランポウは今までパートナーを連れてきたことが何度かあったが、Gや雨月、ナックルは基本的には1人参加だ。アラウディはそもそもパーティに出ない。


『いや、俺はプリーモを警護する立場にあるからパートナーは…』

『本日は人数が多いとはいえボンゴレ関係者のみのパーティでしょう?ジョット様もユキ様をお連れになるんですし、右腕であるG様がおひとりなんて、ねぇ?』


 ユキの存在をだしにしてGの主張をぶったぎると、ビルボ夫人は笑顔で娘達を振り返る。

 すると娘達がにっこりと微笑み、姉だか妹だかどちらかわからないが片方の娘がこくこくと頷いた。

 ちらりとユキを横目に見ると、笑顔を貼りつかせて動きを止めている。

 この状況ではユキがGを助けることはできないし、助けようものなら面倒な事態に陥ることがわかっているのだろう。

 パートナーなどいらないと一喝するのは簡単だが、同盟ファミリーの家族相手に我を通すことはボンゴレの威信に関わる。



 どうしたものか…。



『なんだG。究極にまだこんなところにいたのか。プリーモが呼んでいるぞ。一緒にキャバッローネのところに行くのだろう?』

『ナックル!』


 救いの神ならぬ救いのボクサーの登場に、ユキがGにしかわからない程度の安堵の色を滲ませた声でナックルを呼び、ダブグレイのスーツを着た黒髪の救世主は、快活そうな笑顔をユキに向ける。

 これ幸いとばかりにGは大股でナックルに歩み寄る。


『すまねぇなナックル。俺の代わりにユキのことを頼むぞ』

『おう。究極に任せておけ』


 早足でGが廊下の向こうへ消えて行くと、ナックルはユキの傍まで歩いてくる。

 Gが行ってしまったことに落ち込んだ娘を宥めていたビルボ夫人は、ナックルに向かってにっこりと微笑んで話し掛ける。


『ごきげんようナックル様。お久しぶりですわ』

『ん……?おぉビルボ夫人か!本日はよく来てくれた』

『娘達も楽しみにしておりましたのよ。今ユキ様を控室にご案内して差し上げましょうかと話しておりましたの。殿方は女性の控室の場所などご存じないでしょうから』


 いつそんな話をしたのだろうと首を傾げかけたユキに気付かず、ナックルは笑顔で『それは究極に有難い申し出だ』と答える。


『だがユキは俺が連れて行くから心配は無用だ。ユキの控室の場所は守護者全員が究極に把握している!』

(〜〜〜〜ッ!!)

『ん?どうした?ユキ』

『…なんでもないよ』


 ビルボ母娘の反感を買いそうなことをあっさり言うナックルに、ユキは硬い笑顔を向ける。



 結局、控室は同じ方向だからと言ってきたビルボ母娘と並んで歩くことになってしまった。


『ユキ、言い忘れていたがそのドレスよく似合っているぞ』

『ありがとう。ナックルも素敵だよ』

『本当に落ち着いた色で素敵なドレスですわ。うちの娘達はまだ若いのでこういう清楚な色のドレスしか似合いませんの』


 そう言ってビルボ夫人は娘達のベビーピンクと薄いブルーのドレスがナックルに見えるように2人を前に押し出した。

 あからさまな嫌味にユキはビルボ母娘には見えない位置に顔を向け、口をへの字に曲げる。

 ナックルはビルボ夫人の嫌味にもユキのげんなりした表情にも気づかない様子で、ユキの琥珀色のドレスを見て頷く。


『プリーモは究極に趣味の良い男だからな。あいつが見立てたものがユキに似合わぬはずがない! …お、着いたぞ。ここがユキの控室だ』


 ジョットの見立てと聞いて母娘が慌てだしたのにも気づかないらしいナックルが、控室のドアの前で足を止めてユキの方を向く。


『パーティの開始まではまだ時間がある。茶でも飲むなら付き合うぞ』


 本音を言えば1人で控室にいるのは退屈なので是非ともそうしたいのだが、ビルボ母娘の視線を感じユキはゆるゆると首を横に振る。


『ジョットが来るのを待ってる。挨拶回りが終わったら来るって言ってたから』

『それもそうだな。ではユキ、またパーティでな』

『ありがとう。ナックル』


 笑顔のナックルに見送られ、ユキは3つの棘のような視線をできるだけ見ないようにしながらドアを閉めた。