恋物語パーティ編 | ナノ


アザレ エゴイズム 3







 表向きはここ数か月の間で増えた傘下のファミリーとの親睦を兼ねたものだと言ってきたらしいが、提案書にはユキについて記されていたという。

 ボンゴレ上層部や同盟ファミリーのボスでも出入りを厳しく制限されている屋敷に、ボンゴレとは縁もゆかりもない日本人女性が住んでいるという事実について説明をすべきだ。そう暗に要求しているのだと、ジョットは先週の会議で言っていた。

 タイムトラベルについては話がややこしくなるからとボスと守護者だけの秘密としていることから、先の暴動に巻き込まれ身寄りを亡くした娘を引き取った、と説明したという。

 だが、ただ引き取るならまだしも本部と並んでボンゴレの中枢とされるジョットの屋敷に置くのはいかがなものか、ということらしい。


『ユキを娼婦のようなものだと思わせるわけにはいかなかったからな』


 梅こぶ茶を静かに啜るジョットは、苦い顔をしたままだ。普段なら、そんな顔で茶を飲むなと注意するところだが、雨月は何も言わずに自分も茶を啜る。


『その気持ちはわかるが、しかし…』

『この話は会議で決着したはずだ。明日のパーティ、ユキは俺のパートナーとして連れて行く。』


 今までジョットはどんなパーティでもパートナーを連れては行かなかった。

 それが今回はユキをパートナーにするという。

 ただパーティに参加するのと、ボスのパートナーでは次元が違う。

 ボスの女として認識されるだけでなく、それに相応しい資質を求められる。


 こちらに来て数ヶ月のユキには、荷が重すぎる話だ。


『今回だけは守護者の誰かのパートナーとして参加させれば良いではないか。娼婦扱いが嫌だというのは全員意見が一致している。だがユキは聡明でイタリア語も問題なく、身のこなしだって見られるようになった。それで十分、マフィアとしての教養があることがわかろうというもの』

『なんだ雨月。お前まで俺からユキを奪うつもりか?』


 冗談っぽい口調ではあったが、ジョットの目は笑っていなかった。

 雨月は眉を寄せ、冷め始めた湯呑をテーブルに置く。


『ユキはお前の女ではないでござるよ。ジョット』

『そうだな。だが、俺のものだ』

『せめて、ユキの気持ちを聞いてやれないのか?』

『ユキが拒否すれば、守護者からパートナーを選ばせるつもりでいるさ。だが最初に申し込むのは俺だ』


 自分勝手な言い方はジョットらしいといえばらしく、らしくないといえばらしくない。

 友としての贔屓目がなくても、ジョットは最高の男だと雨月は思っている。

 彼が愛情を注げば、ユキは受け入れるかもしれない。

 だが彼女にはまだボスの女としての責務は重い。


『お前の我侭で、ユキが潰れるかもしれぬのだぞ…』


 ボスの女だと思われれば、同盟ファミリーも、ボンゴレの幹部達も、ボンゴレを思うが故にユキに様々な重圧を載せてくるだろう。

 そして、それ以外の心なき悪意にもさらされるかもしれない。

 過ごした時間は短いが、すでに妹のような存在になりつつあるユキをそのような目に遭わせたくはなかった。





『ユキを初めてボンゴレとして同盟ファミリーの前に出す』





 ぽつりと落とされた言葉に、雨月ははっと顔を上げた。

 目の前にいる友は、自嘲の笑みを浮かべて雨月を見返してくる。


『そのときに、ユキの隣に立っていたい。…ということしか考えられない俺は愚かだろう?雨月…』

『ジョット……』


 子どものような我侭を苦しそうに口に出す、イタリアンマフィアの頂点に立つ男を目の前に、雨月はそれ以上何も言えなくなる。










 彼もまた、ただの人で、ただの男なのだ。










 走り出した想いを制御する術を持たない、ただの男でしかないのだ。












(要約すれば、着飾ったユキを自分の隣において見せびらかしたいだけでござろう?)

(……要約するな)








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