ヘブンリーブルー デルフィニウム レディ 3
『ひゃうっ!!』
『何してるの?』
『アラウディさん!』
振り返ると久しぶりに見るプラチナブロンドと青い瞳。
アラウディはユキと目が合うと唇の端を吊り上げた。
『久しぶり』
『あ、お久しぶりです』
『平和ボケした馬鹿娘は卒業かい?』
酷い言われようにユキは苦笑いを浮かべるが、表現は的を射ているので仕方がない。
ユキはアラウディの青い目をしっかりと見つめ返す。
『卒業してみせます』
『…いい目をするようになったね』
少しだけ驚きを含んだ声でアラウディは言う。
ユキがきょとんと首を傾げたところで、食堂にGの怒声が響き渡る。
『さっさと行けぇっ!!』
『ひーっ!!』
ランポウの涙声が聞こえたかと思ったら、慌てたように食堂の扉が開かれる。
自分達の方に向かってきた扉をさっと避けたユキとアラウディを視界に入れた途端、ランポウの声がさらに大きくなる。
『ユキーッ!!』
『ふわぁっ!!』
目に涙を溜めたランポウに抱きつかれ、衝撃で後ろに下がったユキだったが、後ろにはアラウディがいたため彼らに挟まれる状態になる。
泣きながら自分をぎゅうぎゅう抱きしめるランポウと、背中に感じるアラウディの体温に、ユキの顔はたちまち真っ赤になる。
『ユキー!!よかったんだものねー!!』
『ちょ、ランポウ!つぶっ、潰れる!アラウディさんも!』
『僕が退くと君は間違いなく倒れると思うけどいいのかい?』
『それも困る、けど!』
そんなやり取りをしている間に、入口での騒ぎに気付いたGが大股で歩いてくる。
『何やってんだてめぇら!ランポウはさっさと荷物を受け取ってきやがれ!!』
『はいぃぃっ!!』
ランポウが玄関へ向かって走っていくのを見送った後、呆れ顔のGとユキの視線がかち合う。
スーツ姿を見た時に全てを悟られたのを思い出し、へにゃりと笑うと、苦笑したGに頭をがしがしと撫でられる。
Gに続いて現れたナックルに背中を叩かれ雨月に労われDには髪にキスされた。
ユキの覚悟を、全員が受け入れた。
そう伝えられて、嬉しくて涙が出そうだったが嬉しい時は泣くよりもすべきことがある。
そう思ったユキは全員を見渡して、にっこりと微笑んだ。
* * *
『ねぇ、ところで皆何してるの?』
食堂が騒がしい理由を問うと、にやりと笑ったナックルと雨月が自分の体をずらしてユキに食堂のテーブルが見えるようにする。
つま先立ちをして2人の肩の間から覗き込み、ユキは「あ!」と声を上げる。
テーブルにはGが作ったものと思われる料理が敷き詰められ、普段は使わない高級な食器やグラスがところせましと並んでいる。
『考えてみれば』
後ろから聞こえた声に振り返ると、金髪にオレンジの瞳のジョットが立っていた。
ジョットは両手で抱えるほどの大きな青い花の花束を持っている。その後ろにはいろんな荷物を運ぶため行ったり来たりしているランポウの姿も見えた。
『お前が来た時はバタバタしていて、歓迎会も開いてやれなかったからな。…Dから聞いた。誕生日だってな』
『あ…』
驚いてDの方を向くと、スペードの瞳が笑みの形に細められた。
その笑みからはもう微塵の恐怖も感じなかった。
『貴女がこちらに来た日から107日後だと言っていたでしょう?貴女のいた世界とは時代も季節も違うでしょうが、今日は貴女の誕生日ですよ』
いろいろな意味でね、と締め括られた言葉に、胸がじんわりと熱くなる。
笑顔が綻ぶユキを見た後、Dは視線をジョットが持つ花束へと移す。
『デルフィニウムですか。誰が選んだんです?』
『俺に決まってるだろ』
ジョットが答え、ユキに向かって花束を差し出す。1メートルほどの茎に青い小さな花がいくつもついている花だ。それが100本の束になっている。
両手で受け止めると優しい香りがふわりとユキを包んだ。
『お前によく似合う花だ。 Buon compleanno《誕生日おめでとう》』
『ありがとうジョット。ありがとうっ、皆』
究極にパーティの開始だ!の声を合図に、全員がテーブルへと移動する。
Buon compleanno
新しい世界で迎える、初めての誕生日。
この世界で生きることを改めて誓った日、ユキは最愛のボスから受け取った花束の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
一生、忘れることのないように…。
デルフィニウムの花言葉: 『貴女は幸福を振り撒く』
(ランポウてめぇ銀食器《シルバー》のナイフは10本っつっただろうが!)
(これは100本でござるな)
(ひぃっ!間違えたんだものね!)
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