ヘブンリーブルー デルフィニウム レディ 2
『ん…』
薄く開けた瞼の隙間から見覚えのない景色が映り、ユキは訝しがりながらも体を起こす。
自分の部屋にあるものの倍以上の大きさのベッド。自分が今まで頭を載せていた所為で少し皺の寄った枕からは、ジョットの匂いがふわりと香った。
ぼうっとしていた頭が、その香りを嗅ぐうちにはっきりしてくる。
『うあぁぁ…』
頭を抱える。忠誠を誓ったばかりのボスの前で寝こけてしまった恥ずかしさに。
着ているスーツはしわくちゃだ。せっかく2日徹夜してサイズを直したのに。
ジョットもジャケットくらい脱がせてくれればいいのに。
そう考えて、その言葉の恥ずかしさに首をぶんぶんと振る。
熱くなった顔を押えながら寝室を出ると、ジョットのデスクの上にユキの服が置かれていた。
それはジョットが用意してくれた服の1つで、藍色の千鳥格子柄のワンピースだった。
ワンピースの上に置かれたメモを手に取ると見覚えのある、流れるようなジョットの筆跡。
【これを着て食堂に来い】
来いって…。
時計を見ると午後3時くらいだった。
ジョットの指示ならば従わなくてはならないが、顔は涙が乾いてかぴかぴで、目は赤く瞼が腫れている。
ジョットの部屋で着替えるわけにもいかないので、一度自室に戻る。
顔を洗い、目を軽く冷やして化粧を直したが、瞼の腫れは完全には引かなかった。
そのことに少しだけ落ち込んだが、気を取り直してワンピースに袖を通して食堂へと向かう。
* * *
1階に下りると、賑やかな声が聞こえてくる。
『アラウディのやつは究極にどこに消えたのだ!?』
『いつものことだろうが。それよりランポウ!ちゃんと注文の電話は入れたんだろうな!?』
『それ3回目。ちゃんと注文したものね。ついでに屋敷の足りないものも注文させるなんてGもちゃっかりしてるんだものね』
『うるせ』
『ああ雨月、今日は紅茶を淹れるので湯呑は出さないでください。全体のイメージが崩れます』
『そうでござるか?なかなか趣があって良いと思うのだが』
なんか、凄く賑やか。
守護者達の騒ぐ声が聞こえるドアの前で、ユキは困ったように立ち尽くす。
自分が寝ている間の仕事を守護者達がやってくれているのだろうか。
だとしたら申し訳ない。
そんなことを思っていると、ぽん、と肩に手を置かれた。
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