恋物語日常編 | ナノ


シトロングリーン サボタージュ 1


シトロングリーン サボタージュ








『ユキー…ちょ、…っとかくまってほしいんだものね……』

『?』


 ランドリールームで大量の洗濯物にアイロンをかけようとしていたユキは、名前を呼ばれた気がして振り返る。

 入り口からふらふらと現れたのは緑色のくせっ毛を揺らした細身の青年だった。

 熱した重いアイロンを慎重に台に置き、ユキは顔色の悪いランポウに駆け寄った。


『大丈夫?お水でも持ってこようか?』

『いい…。ちょっと、寝たいんだものね…』


 自分の部屋で寝ればいいのにと思っていると、ランポウはふらふらと清潔な床の上に積まれたシーツの山へと向かう。

 ぼすっと音を立てて倒れこんでしまったランポウは、陽だまりの匂いを気持ちよさそうに吸い込んだ。

 すでに眠りに落ち始めているのか、ぼそぼそと説明する声に耳を傾けると、どうやら仕事をサボりすぎてとうとうボスと右腕のお叱りを受けたらしい。

 徹夜をしても終わらない仕事とジョットの命で自分を探すGから逃げるべく屋敷内をうろついて、ここまでたどり着いたらしい。


 本来なら仕事に戻らせるべきなのだろうが、すやすやと眠るランポウの顔色は未だ悪く、少し眠らせてあげてからにしよう、とユキはランポウの体に干したてのシーツをかけてやる。




 彼が仕事嫌いなのは知っていたが、こうなるまで溜め込むのはよくない。

 素直に言うことを聞くとは思えないが、後で自分からも言ってみよう。



 そう心に留めて、ユキはアイロン台へと戻る。





* * *





『ったく、あと10分経ったら引き摺って連れてくぞ』

『ん。ありがとう、G』


 うっすらと目を開けると、体にかかるシーツのふわりとした感触。

 その気持ちよさに再び瞼が重くなってきたが、聞こえてきた声がGであることに気づいて体が強張る。

 だが自分を追いかけてきた時と違い、その声には険がない。


『あまりあの坊ちゃんを甘やかすな。お前が来てからサボりに拍車がかかってやがる』

 そんな言い方しないでよ、と言い返したくなったが、起きていることがバレたくないので黙っていると、ユキが笑う柔らかい声が聞こえてくる。


『でもランポウはここより大きなお屋敷を持ってるんでしょう?そこに帰らずにここにいるってことは、ボンゴレの仕事がきっと楽しいんだよ』

『いや…ただここの方が居心地がいいと思ってるだけだと思うが…』


 正解。

 ユキが来てから、この屋敷の居心地がとてもよくなった。

 雨月さんもいるし、Gが仕事を増やした分俺の仕事が減ったし、アラウディさんとDさんは所かまわず睨み合うことがなくなったし。






 ユキは不正解。

 ボンゴレの仕事は危険で、怖くて、面倒。

 それなのにボスは俺を最前線で戦わせるから、楽しくなんてない。

 だけど、実家に戻って、あのどろどろした裏の世界に片足突っ込んで、甘い汁を吸い上げる父や兄弟たちに会うのもごめんだ。



 まだ俺には彼らを糾弾する勇気が持てない。



 ボスも何も言わずにいてくれるから、甘えてしまう。
 俺はまだ、もう少し、お坊ちゃんでいたい。



 自分の正義を確固たる形にして、それをぶつけられる日がくるまでは。



『G………俺はランポウを連れてこいと言ったはずだが?』

『!』

『あ、ジョット。 Ciao!』

『Ciao、ユキ』


 地を這うようなボスの声に、お茶を飲んでいたらしいGがカップを落とす音が聞こえた。

 ランドリールームでお茶出すんだ…ユキ。飲みたいなぁ。





 …もう逃げられないな。よく寝たし、そろそろ起きようかな。



 うん。でも、こんな風にサボれるなら、もう少し仕事頑張ろうかな。



 結局俺が頑張れるのって、ボスや他の守護者、そして…





 ユキに嫌われたくないからだものね…。










(おはよー。ユキー俺もお茶飲みたいんだものね)

(お前なぁ…)

(まぁまぁ。ジョットもお茶飲もうよ。すぐ用意するから)








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