恋物語日常編 | ナノ


オレンジ スカイ ハイ 1


オレンジ スカイ ハイ








 よく晴れた朝、身支度を整えたユキは庭に出るために屋敷の階段を下っていた。

 屋敷周りのガーデニングは定期的に来る庭師に任せてあるらしく、ユキにすべきことはほとんどないのだが、庭に目立たないように作られたハーブ園にはよく足を運んでいた。

 ユキはこの時代に来て、目覚まし時計の大切さを思い知った。

 朝起こしてくれる存在というのはとても有難いものなのだと、中学生のころ投げつけ壊してしまった時計を思って手を合わせたほどだ。



 幸い、雑用となって10日経つが、今日まで大きな寝坊することなく家事をこなしてこられた。しかし早く起きすぎてしまったのは今日が初めてだった。

 朝食の下ごしらえは前日に済ませてあったし、掃除の音で皆を起こすわけにもいかず、散歩も兼ねてハーブ園に行くことにしたのだ。


「そろそろバジルが摘めるはず……あれ?」


 庭に作られた小道の先に、動きやすそうな服の、黒髪の後ろ姿があった。

 男はユキの気配に気づいたのか、くるりと振り返る。


「ユキではないか。究極に早いな」

「究極には早くないと思うけど、おはよう。ナックル」


 挨拶をすると、ナックルも白い歯を見せて挨拶を返してくれる。

 ナックルはユキがボンゴレに入ると決まった時からよく気にかけてくれて、打ち解けるのがとても早かった。

 有名なボクサーでもあるという、快活そうな笑顔を持つ彼を、ユキは兄のような存在として慕っていた。


「こんなところで何してるの?」


 トレーニング?と首を傾げるユキの唇に指を押し当てたナックルは、ふっと微笑んで顎をしゃくる。

 示された方に目を凝らしてみると、少し下り坂になっている道の先の、開けた原っぱに、明るい光のようなものが見えた。

 オレンジ色の明るい光が、ノッキングするように点滅している。

 あまりに遠いので、ユキはその光が小さくなって初めて正体が人であることに気付いた。


「ジョット…」


 原っぱの中心に立っていたのは細身のパンツとシャツに身を包んだ、普段よりラフな服装のジョットだった。

 指で三角を作るように手を合わせ、微動だにせず立っている。

 光だと思ったのは、ジョットの額部分に燃え上がる炎だった。


「死ぬ気の炎…」

「そうだ。あれがプリーモの炎、大空の炎だ」


 死ぬ気の炎。人体に宿る超圧縮エネルギーだと聞いていた。

 ボンゴレが見つけ出し、ボスとその守護者の特徴になぞらえて、7つの属性があるという。

 ボンゴレファミリーはその死ぬ気の炎を使いこなすことでマフィアの頂点に立てたと言っても過言ではないと雨月が言っていた。


(この時代に来たあの日、ジョットはこの炎で私を助けてくれたんだ。)


 きらきら輝いて見えるほどの、明るいオレンジの炎。





 全てを包み込む大空。