恋物語日常編 | ナノ


カーマイン ボス 1


カーマイン ボス








『よぉ、プリーモ』

『Gか。こんな時間に来るなんて珍しいな』


 守護者専用の隠し通路から入ってきたGに、ジョットは薄く笑ってソファを示した。

 いつもなら夕食の準備にかかっているはずのGは、ソファに腰を下ろし、にやりと笑う。


『ユキが家事をやりたいって聞かないんでな。道具や機械の説明だけして、任せてきた。あの女はお前の言うことを聞かなかったな』


 その言葉にジョットはぴくりと眉を動かし、立ち上がってデスクからソファへと移動する。

 腰を下ろすと、向かいに座る右腕はくっくっくと笑っている。

 全身の酸素がなくなるかと思うほどの深いため息をついて、ジョットはずるずるとソファに凭れ掛かった。


『イタリア語を勉強すると言い出した時から、こんな予感はしていたんだ』


 ユキはジョットの予想をはるかに超えた芯の強さを持っていた。

 元の時代に帰る術はなく、ボンゴレに頼って生きて行くしかないと悟った途端、ボンゴレの上層部は全員日本語が話せると教えてやったにも関わらずイタリア語を習得すると言いだし、マフィアについて学ぶと言いだした。

 家族に会えない、元の場所へ帰れないという悲しさを微塵も表に出さず、ボンゴレで生きて行くための術を自分の力で身につけようとしている。





 ジョットはユキを客扱いしたかった。それか妹のように、娘のように、恋人のように。

 働く必要などなく、何不自由のない生活を与えてやりたかった。

 マフィアについても、最低限知っておけばいいと思っていた。最低限必要なことだけ、そうすれば守ってやれる。


『温室の花のようなお嬢様にってか? 無理だな、そんな玉じゃない』


 楽しそうに笑うGを、ジョットは睨む。

 先の抗争の事後処理はもうすぐ終わる。そうすれば、ユキの相手をする時間がとれると思っていた。

 そしたらどこかへ連れて行ってやればいい。ユキにとっては珍しいものばかりだろうから、欲しがれば与えればいい。そう、思っていた。


『お前はユキがただのほほんと過ごして、時々自分の相手をしてくれればいいと本気で思ってたのか?あいつはそんな女じゃないと、わかって拾ったんじゃないのか?』


 Gの目は、いつの間にか真剣な光を帯びていた。

 Gは自警団時代から、ジョットの直感に絶対的な信頼を置いていた。