恋物語日常編 | ナノ


サックスブルー レイニー ナイト 2







『ジョット、寝るなら自分の部屋に戻ってよ』


 食堂のテーブルに突っ伏してうつらうつらしていると、キッチンから戻ったらしいユキに肩を揺すられる。

 半分以上開こうとしない瞼を何度かぱちぱちさせて体を起こすと、目の前に温めたワインが置かれた。

 グラスに触れると指の先からじんわりとあたたかくなっていく。

 隣に座ったユキと共にレモンとカルダモンの香りのする、甘いワインを味わった。


『美味いな。ユキはまだ寝ないのか?』


 ジョットが湯を浴びている間、ユキはびしょびしょになった玄関や廊下、ランドリールーム、つまりはジョットの通った場所を全て掃除していた。

 疲れているだろうに、ジョットが着替えて出てくるまで待っていて、ワインまで用意してくれたユキは両手で包み込むようにしてグラスを持ったまま、ふわりと微笑んだ。


『うん。今日は皆仕事でいつもより朝ごはんが早いからこのまま起きていようと思って』


 窓の方に顔を向けると、白み始めた空が見える。

 もう朝なのか、と思うとこの時間がとても儚いもののように思えた。





 予期せぬ2人きりの時間を、もっと…





『なぁユキ。今日は午後から俺と出掛けないか?』


 ふっと頭に浮かんだ思いつきを、すぐに口に出すと、ユキはグラスに口をつけたままびっくりしたように目を大きくしている。

 口に出してみるとますます良い提案に思えて、ジョットはにっこりと微笑んだ。


『朝食の準備以外の仕事は全て休みにしよう。ここに来てからまともに外に連れて行ってやれなかったからな。丁度いい』

『っでも、ジョットの仕事は?』

『俺も休みだ。うん、そうしよう。な?』


 ジョットの仕事が急に休みになるはずがない。

 そう思ってユキは迷ったが、ジョットの笑顔を見ているうちにこっくりと頷いた。


 この屋敷で働き始めて3ヶ月。屋敷とそれを含む敷地が広いため特別不満思ったことはなかったが、外出できるのは単純に嬉しかった。



 ユキが了承したことに、嬉しそうに笑うジョットを見て顔が綻ぶ。





 びしょ濡れで帰ってきて、一緒に風呂に入らないかと誘ってきて、今は一緒にワインを飲んでいる。



 いつもはきっちりしている服装は、ボタンも掛け違えているし、シャツもズボンの外に出してしまっている。


 マフィアのボスとは思えない姿のこの青年を、とても素敵だと思った。





 彼と一緒に出かけたら、きっと楽しいだろう。



『午後。楽しみだね』

『あぁ。じゃあ俺は寝るかな。ユキもあいつらに朝食を出したら一眠りしろよ』

『うんっ。おやすみ、ジョット』

『おやすみ、ユキ』


 本来は夜にするべき挨拶を交わして、ユキは部屋へ戻るジョットを見送った。





 いつの間にか雨は止み、雲の隙間から朝の光が差し込んでいた。










(出かけるだぁ?プリーモの仕事を急に休みにできると思ってんのか?)

(ダメ、かな…?)

(…チッ。今回だけだからな!)





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