エジプシャンブルー シエスタ 1
『ユキが無事でいて、本当に安心したでござる。報告書を読んだが、ランポウ奪還作戦は見事だった。師として誇りに思うよ』
狩衣ではなく薄群青の着流し姿の雨月は、そう言ってユキに微笑んだ。
完全に集合したジョットと守護者達、そしてユキはG基地で撤退までの時間を過ごしていた。
急ごしらえのソファセットにユキと雨月は座り、その近くのテーブルではランポウとナックルとDが食事を取っている。もちろん作ったのはユキだ。Gとアラウディはそれぞれの部下の指示のため、ジョットは治療のためこの場にはいない。
『っ…ありがとう、雨月…』
師からの労いにユキは素直に感動したが、雨月はにこやかな笑顔を浮かべたまま、腰に差した刀を鞘のまま抜き、先を床へ打ち付けた。高く響いた音に、ユキは驚いて肩を竦める。
目を丸くしているユキに、雨月は顔を向けた。黒曜石のような瞳が冷たい。
『が、それはそれでござる。我々を心配させた無茶な行動は、篤と言って聞かせる必要がある』
一瞬で、ユキの顔が青くなる。師の説教の際の笑顔は最も恐ろしいもののひとつだ。雨月は続けた。
『特にD隊へ行けというプリーモの指示を無視して捕まったことと、勝手にG基地を飛び出した件についてはきっちり言って聞かせろと、Gからも言われているのでな』
もう一人の師が強面と刺青を歪ませて、笑ってそれを言う様が頭に浮かんで更に背中が冷たくなる。
雨月の笑顔に押されるまま、ユキはその場で靴を脱いでソファの上で正座した。姿勢を正した瞬間から、説教はスタートした。
エジプシャンブルー シエスタ
『ま、自業自得だものね…』
師弟の様子を横目に見ながら呟いて、ランポウはリゾットを少しずつ掬って口に運ぶ。
胃の腑に優しいものを、とユキが考慮してくれた料理だが、口の中が切れているので少量ずつしか食べられない。今回の戦争に於いて、ランポウはジョットに次ぐ重傷者だ。そのため利き腕も使えず、食事のスピードは至極ゆっくりだ。
『究極に懐かしいぞぉお!!』
ランポウとは別のメニューをかき込むように食べながらナックルが叫ぶ。嬉しそうに響くその言葉に、ランポウは小さく頷く。
ユキの料理を食べるのは二週間ぶりで、出てきた瞬間にその香りにほっとした。懐かしくて、安心した。
紅茶とスコーンだけしか食べていないが、Dも同じことを思っているのか口元に笑みが浮かんでいる。
尤も、雨月の説教が始まってから笑みが深くなったので、しゅんと縮こまっているユキを肴に紅茶を飲んでいる可能性もあるが。
あたりまえと思っていた【いつもの味】が幸せで、でも作った本人が同じ部屋にいるところでそれを言うのは恥ずかしくて、ランポウは黙ってリゾットを咀嚼した。
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