チャイニーズレッド ティアーズ 2
『カルロッタお嬢さんにも伝言。……ビルボの親父さん、生きてるよ』
満面の笑顔で言われた言葉。
一瞬、理解が遅れたカルロッタは、その言葉を頭の中で繰り返す。
理解すると同時に、涙が溢れた。
『お父様…っ。お父様が?』
『うん。怪我はしてるけど生きてるよ。俺はそれを伝えるっていうユキ様の命令…を横取りしてーここにきたってわけ』
よかったねと微笑まれて、カルロッタはぼろぼろと涙を溢しながら何度も頷いた。
『さぁーて、G様の般若もそろそろ治まってるだろうし、俺は戻るかなー』
泣いているカルロッタの肩をひとつ叩いて、テオは踵を返す。
天幕から出て行こうとするその背中を、カルロッタは慌てて呼び止めた。
『テオドーレさん! あの…もしかして私を心配して、ここへ…?』
涙声のまま問われた言葉に、テオは背を向けたまま大袈裟に頭をがりがりと掻いた。
『いやぁーG様って怒るとかなり怖いんで、G基地から離れられたらどんな理由でもよかったんすよ』
あははと笑う声に、カルロッタの肩が落ちる。
天幕の入り口の布がめくられると、朝の風が中に吹き込んだ。
『テオでいいっすよ。その名前、ボンゴレに入ってからは使ってないんで』
布が翻ったと思ったら、青年の足音はもう遠く離れていた。
髪を直したローザが、涙を拭うカルロッタの横に立ってハンカチを差し出す。
『知り合いなわけ?』
受け取って、頷いた。涙が伝った頬が、じわじわと熱を持っている。
『テオさんは、昔ビルボにいたんです』
灰色の瞳の、警備班長を名乗る男が彼を引き抜きに来たのは、もう2年も前のことだ。
『ああいう男って、相手にすると結構苦労するわよ』
にやにやするローザについそうですよね、と頷いてしまい、カルロッタは慌てて首を振った。
* * *
『プリーモ! 究極にもう起きて大丈夫なのか?』
『あぁ。まったく問題ないぞ。ナックル』
スーツとマントを身につけて、笑顔で答えるジョットに、ナックルは小さく眉尻を下げた。
見た目には、ジョットはとても元気そうで、周りにいる構成員達は安堵の表情を浮かべている。
だが、彼が本調子には程遠いことはナックルにはすぐわかった。それは根拠のない、守護者としての、友としての勘だった。
『G基地も落ち着いたらしいから、これから向かうことにした。ユキに会いに行くぞ』
いい加減に我慢も限界だ、と笑うジョットに笑顔を返す。
ユキに会いたいというのは、もちろん大前提としてあるのだろうが、Gやランポウを含むファミリーの皆に、早く元気な姿を見せたいのだろう。
ジョットはボスだから、姿を見せて、笑ってやるだけでファミリーを安心させられる。
『そうだな。究極に、行かねばならんな』
まだ歩くことだって辛いだろう我がボスに、守護者である自分がすべきことは決まっていた。
『よおしプリーモ! 俺はお前と同じ馬車で行くぞ!』
『え? だがお前には専用馬車がちゃんと…』
『何を言う! やっと戦いが終わったというのにそんな究極に堅苦しいものに乗りたくはないぞ。…というわけでプリーモにも同乗の護衛官は必要ない! 俺が一緒に乗るのだからな!』
近くにいた構成員にそう告げる晴れの守護者をぽかんと見ていたジョットは、ナックルと目が合うと、ふと顔を綻ばせた。
『ありがとう…。ナックル』
『うむ! お、雨月も来い! アラウディとDも一緒にどうだ?』
太陽のような笑顔で手招きするナックルに、Dはにっこりと笑顔を向けた。
『ヌハッ。嫌に決まっているでしょう。暑苦しい』
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