恋物語カプリ島戦争終了〜それから編 | ナノ


トープ ケアレス ミステイク 2


 呆れ顔の二人に気圧されかけたが、負けるわけにはいかない。ユキは顔を上げた。


『どうしても行かなきゃいけないの』

『ダメだ。お前は少しでも休むべきだし、やっと安全が確認できた途端にいなくなったとあっちゃ皆が動揺する』


 特にジョットが、という言葉は呑み込んで、Gはリナルドを指すように顎をしゃくる。


『どんな用事か知らねぇが、お前は休め。代わりにリナルドに行かせろ』


 思ってもみなかったのか、ユキは目を丸くし、リナルドはやれやれと微笑んだ。


『リナルドさんなら、信頼できるし有難いけど…。いいの?こんなときにGの右腕を借りちゃって』


 遠慮がちな声に、Gは喉を鳴らして笑う。

 濃い茶色の髪を撫でると、後頭部の辺りに葉っぱがついていた。そういえばこいつ、森を抜けて行軍してきたんだったな。

 部隊を指揮し、雷の守護者を救った彼女に、Gは敬意を込めて言葉を発した。


『お前が望むなら、右腕だろうと心臓だろうと貸してやる。わかったな? リナルド』

『かしこまりました。G様』


 視線を向けられたGの右腕は、微笑を浮かべて完璧な礼を取った。

 片膝を着いてユキの手を取れば、細かい傷がたくさんついた華奢な手が視界に入る。

 触れれば、手のひらにはつぶれた肉刺の、硬い感触。どれも熱を持ち、新しいものだとわかる。

 これ以外にも、怪我はたくさんあるのだろう。怖い思いもしたはずだ。

 それでも、顔を上げれば彼女が笑っているであろうことを確信して、リナルドはその手に唇を落とした。


『ユキ様の御為とあらば、このリナルド…どのようなご命令でも喜んで賜りましょう』


 立ち上がって礼を取ると、予想した通りふわりとした笑顔が視界に入る。


『前も、こんなことあったね』

『そうですね』


 笑みを返す。彼女の笑顔は、どんなときでもあたかかい、風のようだ。








 だからすぐには気づけなかった。








『ほぉ…いつの話だ?』

『ッ…』

『えっと、私の謹慎中に、私の部屋で……って、あれ?』


 ユキは首を傾げて、指を口元にあてた。


『これ、言っちゃいけなかったんだっけ?』


 ユキ様が小首を傾げる。

 彼女のものではない、だが一番近くから突き刺さる視線に、指先がさっと冷えた。

 言ってはいけないことを言ってしまうのも、それに気づけないのも、勝利による気の緩みからくるのだろう。








 自分の失態を自覚しつつも、リナルドは視界の端に映る上司の、凶悪な笑みからどう逃れるか…思考を巡らせていた。








(テオ、リナルドさんはユキ様の用事で基地を離れられた)

(あ、そうなんすか)

(だからG隊はしばらく自分とお前で仕切るんだ)

(了解っす。まず最初の命令は【般若のような顔が治まるまでは誰もG様に近づくな】っすね)

(……そうだな。命令しておけ)








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