恋物語カプリ島戦争終了〜それから編 | ナノ


エジプシャンブルー シエスタ 2




『お話し中申し訳ありません。ユキ様にいくつか報告があるのですが』


 控えめに掛けられた声にユキが振り返り、雨月が顔を上げるとタノが立っていた。雨月が醸し出す雰囲気に押されているのか、いつもの無表情が僅かに強張っている。

 タノはすっと腰を折ってから、書類の束を取り出した。


『指示にありました最優先報告事項です。よろしいでしょうか?』


 それを聞いて、ユキは勢いよく雨月の方を振り返る。懇願するような表情に雨月は珍しく口をへの字に曲げたが、頷いた。


『2分でござる』

『はい師匠!』


 高い声で返事をしたユキに、タノはすばやく膝をついて話しを始める。


『まずアリーチェ様の病気ですが、医療班によると長期的な治療が必要となりますが、回復は十分可能ということです』

『よかった。……アリーチェには会えるの?』

『今は眠っておられますので、面会許可が下りましたらお伝えします。ローザ様にもそのように』


 それから、とタノは資料を捲る。


『ビルボファミリーのボスですが、治療が終わり意識が戻られたので今カルロッタ嬢とルイゼッラ嬢を部屋に通したところです。護衛はテオが』

『わかりました。後程ボスが話を聞きたいと言っていたから、時間を調整しましょう。私達のボスはビルボのボスの体調を優先すると言っている、と医療班にちゃんと伝えてね』

『御意に』


 頷いて、タノは別の書類を取り出してユキに差し出した。


『管轄地に店を出すにあたってのだいたいの予算が書かれてあります。本部に戻れば空き店舗や土地の資料がありますが、今はこれだけで…』

『そっか…ローザはアリーチェの傍にいたいだろうから、大きな病院がある街がいいのかな。その辺は医療班と相談してみよう。あと、ローザ達の当面の生活を整えないと…それ込みで考えるとあまり時間もかけていられないな…』


 資料片手にぶつぶつ呟き始めたユキを遮るように、タノは更に書類を取り出した。


『ユキ様、ローザ様が正式に借用書を用意したいとおっしゃってますが』

『あー…そこ絶対譲らないって言ってるんだよね。まぁ、それで気が済むなら作るけど、利子も返済期限も一切付けないから!って言っておいてくれる?』

『かしこまりました』

『よろしくね。他の仕事もあるのにごめんなさい。…アラウディさん、早くファビを返してくれないかな…』


 溜め息をついて眉を下げるユキに、タノは小さく苦笑した。アラウディがファビに罰を与えている間、タノがユキに付くことになったのは、心配しょうなボスの右腕の采配だ。

 信用されていないというわけではない。ユキは心配をかけすぎたのだ。



 粗方の報告が終わり、資料をまとめたタノが去ろうと腰を折った瞬間、大きな声が響き渡った。


『プリーモ!!』


 雷でも鳴ったかのような鋭い声に、ユキとランポウは首を竦めた。驚く間もなく、次の声が響く。


『ユキ! 今すぐ来い! おいプリーモ! ジョット!』 


 次々と飛ぶ怒鳴り声に眉を寄せ、ランポウはスプーンを置いた。


『Gさん焦ってんだものね』

『そのようですね』


 Dが同意する。発生源であるGの声は、八割以上怒りからきているもののようだが、焦りも混じっている。基地内にはまだ構成員達が大勢いるというのにジョットを名前で、しかも大声で呼んでいるのがその証拠だ。


『一体何が起こったというのだ!?』

『わからない。とにかく私行ってくる』

『ヌフッ。呼ばれてはいませんが、我々も行ってみましょう』


 気になります、と言ったDに守護者達は頷いて、5人は部屋を飛び出した。









(Gが呼んでいる? わかった。すぐに行こう)








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