恋物語カプリ島戦争終了〜それから編 | ナノ


フォレストグリーン コンフェッション 2


『――以上が、俺達の勝利の詳細だ。これ以上この島に迷惑をかけるわけにはいかないので、すぐに撤収の準備を始める。最優先は怪我人と捕虜、医療チームと監視チームはランポウと雨月の指示に従え。武器の搬送チームはDに、捕虜を武器に近づけるな。ナポリに着いてからの行動だが……』


 拡声器を通して朗々と響くGの言葉に、構成員達はじっと耳を傾けていた。G基地前の広場にいるのは、命令を聞くべき立場にあるチームのリーダーと、現在見張りや看護等の重要な任務に就いていない構成員だ。怪我人であっても、動ける者はこの場に来ている。

 即席で作られた演壇の上にいるのは、Gを含めた六人の守護者と、彼らの一番の部下達。キャバッローネファミリーから派遣された部隊の長も立っている。

 門外顧問の少し後ろに立つ少年の両手に手錠がかけられていることも気になるが、構成員達にはGに問いたいことがあった。


『…ということにする。帰還ルートの詳細は警備班に順次聞きに行ってくれ』

『G様! ボスとユキ様はどちらにおられるのですか!』


 Gの言葉が切れたとき、構成員が声を上げる。ずっとタイミングを見計らっていたのか、上がった声はひとつではなかった。


『お二人からのお言葉はいただけないのですか?』

『ボスはお怪我をされたと聞きました。ここにおいでになれないほどの重傷なのですか!』

『ユキ様が最前線にいたというのは本当ですか?』


 拡声器を下ろしたGに、構成員達は矢継ぎ早に質問を浴びせる。構成員達の間で情報が飛び交い、混乱しているのだろう。

 Gは眉間の皺に指をあて、短く息を吐いた。会わせてやりたいのはやまやまだが、今二人はこの場にいない。どこに行ったかもわからず、唯一居場所を知っている少年は喋ろうとしない。

 いなくなったと言えば構成員達が動揺するのは目に見えている。怪我や疲れを理由に休んでいると言うのは簡単だが、戦争に勝利した直後だ。ボスの口から労いの言葉や勝利宣言がほしいだろう。U隊やN隊の構成員達は、行方不明と聞かされてからまだユキの姿を見ていない。

 さて、なんと言ったものか。構成員達を見て、Gは口を開きかける。

 そのとき、


『G様』


 静かな、Gの右腕の声が耳に触れた。斜め後ろに顔を向けると、涼しげなリナルドの顔が小さく微笑み、灰色の瞳をすっと動かした。

 その視線を追うように顔を向けると、木々が並ぶ道から、緑以外の色が近づいてきているのがわかった。

 遠く、顔がはっきりと見えるわけではなかったが、誰かすぐにわかった。

 金の髪に、黒のストライプのスーツの男に、濃い茶色の長い髪の女性が寄り添って、歩いてくる。



『ジョット、ユキ…』


 思わず口から零れたGの言葉に、壇上の守護者達が反応した。

 ゆっくり、ゆっくりとこちらに近づいてくる二人の顔が見えてくると、ジョットとユキはお互いだけを見つめて歩いていた。心からの笑顔を浮かべた彼らの手が、かたく繋がれているのを見て、六名の守護者達は直感した。


『やっとか』


 呆れたように呟いたGの視線の向きに気づいた、一人の構成員が振り返り、あ!と声を上げる。それに気づいた構成員達が次々に振り返り、歩いてくるジョットとユキに気づいた。


『おまえらが騒ぐから、帰ってきちまったじゃねぇか』


 Gは口角をつり上げ、構成員達の背中に声をかける。


『二人の時間を邪魔するような野暮をするんじゃねぇよ』


 お見事です、とリナルドが小さく呟く声が聞こえた。





 瞬間、爆発したような歓声が起こった。





* * *





『ねぇ、ジョット』

『ん?』


 カッペッレェリーアの檻がある天幕からの帰り道を、ジョットとユキは並んで歩いていた。

 傷ついた自分を気遣ってゆっくりと歩くユキの手を握ったジョットは、微笑んで顔を向けた。繋いだ手を通して伝わるあたたかさに、幸せが体に沁み渡るのを感じていた。

 夢ではないのだ。隣を歩くユキを見ているだけで、そう思う。

 どこがどう変わったというわけではない。手を握ったことがないわけではない。それでも、自分を見るユキの目が、夢ではないのだと教えてくれる。


『さっき話したこと…本当だよね?』


 ユキの言葉に、ジョットは頷いた。二人で歩く森の道に漂う空気はとても穏やかで、心地よい。戦争で忘れていた、平和の空気だ。


『ああ。俺はお前を敵に差し出すようなことにならないよう…強くなる』


 そして、とユキの手をきつく握る。恋を告白しあった二人ではなく、マフィアのボスと構成員としての二人が交わした約束だ。


『万が一、お前を敵に差し出すしか術のない日が来たときは……俺がお前にそれを命じる。それを、お前に約束する』

『ありがとう。ジョット…』


 構成員であることを望んだユキを愛したジョットと、ボスの恋人になることを誓ったユキ。

 ボンゴレとしての誇りと覚悟を以って交わされた約束に、ユキは笑顔で応えた。





 瞬間、爆発したような歓声が起こった。





 驚いた二人が顔を向けると、開けた場所に集まる構成員達が口々に叫び、手を振っていた。守護者達の姿も見える。

 ジョットとユキは顔を見合わせて微笑み、彼らに向かって手を振った。








(やっと全員集合したんだものね)







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