マラカイトグリーン デュランダル 1
マラカイトグリーン デュランダル
『おやおや、本当にいたんですね。ビルボの娘が』
ユキの姿をしたそれは、鼻で笑ってカルロッタとルイゼッラを見やった。
気のせいかもしれないが、顔も少し変わっているように見えた。瞳が青になったからだろうか。まるでハーフのような、西洋人が混じった顔に見える。
『な、なに…?何なのよっ』
なんとか搾り出した声は、掠れて裏返った。
目の前に立っているのはユキのはずなのに、ローザは思わずじり、と後退る。
寒気がした。鳥肌が立った腕を両手で抱く。
目の前の女が浮かべている表情をなんと言えばいいのだろう。
ユキからは考えられない……ああ、わかった。
厭らしい笑み。
『貴方は、霧の…』
カルロッタがぽつりと落とした言葉は、ローザには意味がわからなかったが、相手には通じたらしい。
『おや、ビルボの長女は思ったより聡明だったようですね』
その言葉を聞いて、カルロッタの顔に笑顔が戻る。
ローザはそのことが信じられなかった。
これ、味方なの?
途端、部屋のドアが乱暴にノックされた。
『アリーチェ、時間だ』
見張りの男がユキを迎えに来たのだ。
全員の視線がドアに集まる中、ユキの姿をした女は至極楽しそうにドアに歩み寄り、躊躇いもなく引き開けた。
武骨な見張りの男が、銃を無造作に持って立っていた。ユキの姿をした女を見て、怪訝そうに眉を寄せた。
『アリーチェ?お前、髪…』
本物のアリーチェも、ユキも茶色の髪だ。それが黒髪になっているのを不審に思ったのだろう男に、女が静かに歩み寄る。
今にもくっついてしまいそうなほど見張りの男に顔を近づけるの見て、ローザは慌てた。
そんなに真正面から顔を見せては、アリーチェでないことがばれてしまう。
『ちょっ、やめ』
ローザが止めようとする前に、女が見張りの男の目を覗き込む。
すると、ローザから見える女の横顔…右目が、妖しく光ったように見えた。
『ローザさん』
カルロッタに呼ばれ、ローザは振り返る。
ユキのことを案じていた少女は、とても嬉しそうに微笑んだ。
『成功です!』
『は?』
ぽかんとするローザの手を、カルロッタは笑顔で取ってぶんぶんと振る。
向かい合って立っていた男と女は、なぜかぴくりとも動かない。
計画の準備でずっと張り詰めていたカルロッタの表情は、年相応の少女のものだった。
『プランAが、決行できますっ!』
* * *
なんで、なんで、なんでっ!
なんで俺は逃げ出したんだ。俺は選ばれた。選ばれたのに。
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