リラ デイブレイク 1
リラ デイブレイク
乱戦だった。
オレンジ色の炎の柱が立ち上り、ボスの無事をG基地の全構成員が理解したころ、周囲にいたノヴィルーニオ及びビルボファミリーが総攻撃をかけてきたのだ。
『G様。ご無事ですか?』
右腕が駆け寄ってくるのを、Gはアーチェリーを構えたまま横目で見た。
髪型が少し崩れ、銃弾が掠ったのかスーツの肩口が破れていたが、ボンゴレの精鋭を束ねる警備班長に怪我はなさそうだった。
ぎりぎりと引き絞った弦を離し、Gは律儀に礼を取っているリナルドに顔を向ける。
『誰に言ってやがる。そっちはどうなんだ?』
『基地内への侵入は許しておりませんが、如何せん数が多いですね』
『こちら側に死者は?』
『まさか』
微笑を返されて、Gは頷いた。
数の上では不利だが、ボンゴレとノヴィルーニオでは元々構成員の地力が違う。
ボスも無事、ユキも無事と分かれば、迷う理由はない。捕虜となったランポウのことは気になるが、ジョットが何も考えずに総力戦の指示を出すとは思えないので、何とかしているのだろう。
『G様ぁっ! リナルド先輩!』
慌てたような声に振り返ると、テオが転がるようにGとリナルドの方に向かってきた。
テオの声はよく響くので、近くにいたらしいタノも、何事かと近づいてきた。
ほぼずっこけるような形で、テオはGの前に跪き、許しを得る前に話し始めた。
『報告! 北よりボンゴレの部隊が接近。L基地を落とし、ランポウ様を奪還した部隊とのことです』
『何? どこの部隊だ? いやそれより、ランポウは無事なんだな?』
身を乗り出すGに、テオは満面の笑みを浮かべる。
『ランポウ様はなかなかずたぼろですがご無事です。応急処置も済んでいるそうです。それで、例の部隊は【風部隊】を名乗っています。……率いているのは、ユキ様です』
『なんだと!?』
Gは目を剥いたが、声を上げたのは彼ではなくリナルドだった。
リナルドは自分の反応にすぐ気づいて気まずそうに目を伏せたが、その反応は当然だろう。
ユキは無事だと聞いていた。当然、ジョットと一緒にいるものだと思っていた。
赤い瞳に困惑の色を浮かべ、Gはテオに問う。
『ユキが部隊を率いてL基地を落とし、ランポウを奪還したというのか?』
『はっ。風部隊はもうすぐG基地に到着し、援護に入るとのことです。部隊の先頭にはユキ様が……先陣を切って戦うと聞かないそうです』
『まっ…たく、アイツは…』
Gは額を押さえた。
もう、疑ってはいなかった。ユキはここにくる。
アイツはいつもそうだ。突然現れて、こちらを驚かせる。
ちら、とリナルドに視線を向けると、Gの右腕は片方の眉をひょいと上げた。いつの間にか、崩れかけていた黒髪は元に戻っていた。
『頼むぞ、リナルド』
『かしこまりました。G様』
完璧な礼を取ったリナルドは、灰色の瞳を二人の部下に向ける。
『テオ、タノ』
『はっ』
『はいっす!』
びしりと姿勢と正した、童顔の青年と武骨な青年に向かって、リナルドは声を張り上げた。
『行け。ボンゴレの精鋭…警備班の名において、ユキ様をお守りしろ!』
それを聞き、テオとタノは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに礼を取りその場から消えた。
部下がいなくなった場所から、ユキの部隊がいると思われる方向に視線を向けるリナルドを、Gは微苦笑を浮かべて見やった。
『俺は、お前に行けと言ったつもりだったんだが?』
自分はG基地を指揮する立場だから、ユキのもとへは行けない。
だから最も信頼する部下に、ユキを守って欲しかったのだが、Gの右腕は眉を下げて唇を歪めた。
『自分はG様の右腕ですから。……それと、』
『なんだ?』
珍しく言いよどんだリナルドに、Gは眉を顰めた。
灰色の瞳を覗き込むと、すっと視線を外された。
『今会ったら…抱き締めてしまいそうなので……』
はにかんでいるのか、苦笑なのか、困っているのか、とにかくよくわからない顔をして、Gの右腕は掠れたような声をぽつりと零した。
きょとんと目を大きくしたGは、リナルドの顔をまじまじと見た後、苦笑した。
右頬の刺青が、僅かに歪む。
『あぁ……同感だな』
口の中で呟いたつもりだったが、思っていたより頭の中に自分の声が大きく響いた。
アーチェリーを構え直し、勢いよく顔を上げて、Gはリナルドに声をかける。
『森に降りて一気に数を減らす。援護しろ』
『御意に』
太陽が半分ほど顔を出していた。
完全に日がの昇るころ、決着はつくのだろう。
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