恋物語カプリ島奪還作戦編 | ナノ


ホーリーグリーン マーチ 1


ホーリーグリーン マーチ








 爆発音が轟いた。

 体を起こそうとしたランポウだったが、すぐ傍にいた部下に遮られる。同じ部屋に閉じ込められていた部下達はすでに、鎖に繋がれた状態だが戦闘体勢になっていた。

 一拍おいて、銃声が立て続けに響いた。

 扉の向こうから怒号と叫声が折り重なるように聞こえ、指先が冷えていくのをランポウは感じていた。まさか、逃がした部下達が戻ってきたのではないだろうか。


『お動きになってはいけません。傷に障ります』


 無意識に再び体を起こそうとして、再び遮られる。ほとんど拷問に近い尋問による傷が熱を持ち、体は鉛のように重い。

 だが、そんなことは言っていられない。このL基地で戦闘が行われているのなら、ボンゴレの部隊であるはずだ。

 他の基地にいるボンゴレは、ボスが捕まっている限り動けないはず。


 思考が頭の中をぐるぐる回るのを感じていたら、突然ガチャガチャと耳障りな音が鳴り、乱暴に扉が開かれた。ほぼ同時に、視界が部下の背中で塞がる。

 なんとか首を伸ばして、開いたドアを見ると、見覚えのある男が立っていた。

 誰だったか思い出そうとする前に、地を這うような低い声がランポウの耳をねぶった。


『よくも…よくも、カッペッレェリーア様を……』


 血走った目をぎらぎらと向けてきた男は、ここを見張っていたカッペッレェリーアの直属の部下の一人だ。

 怒りで顔を真っ赤にした男は、片手に持った銃をまっすぐランポウに向けた。手のひらにすっぽり収まる小型のものだが、この至近距離ではあまり関係はない。


『ランポウ様に手を出すな!』

『うるさい! カッペッレェリーア様がボンゴレの手に落ちた今、もう貴様らに用はない。死んでもらうぞ…雷の守護者!』

『やめろ!』


 部下の制止の声を、叫ぶように遮った男が引き鉄に指をかける。

 その瞬間、バタンッと音を立てて少しだけ開いていた扉が閉まった。

 それなりの重量のある扉だが、それを差し引いても考えられないほど大きく響いた音に、全員の動きが止まった。


『な、なんだ…? ッ』


 ランポウの方に銃口を向けたまま、後ろを向いた男が息を呑んだ。


『なっ、なんだこれはあぁぁっ!?』


 悲鳴に近い叫び声をあげた男が、体ごと振り向いて閉まっている扉を撃った。


『く、くるな! くるなあぁぁっ!!』


 二発、三発、四発。

 扉から床、そして自分の足元に向かって引き鉄を引く男に、ランポウと部下達はぽかんと口を開けた。男が何に向かって撃っているのかわからない。

 ランポウは近くにいた部下と顔を見合わせる。部下が困ったように首を傾げたので、自分と同様部下達にも何も見えていないのだとわかった。

 カッペッレェリーアの部下の叫びが、一際大きくなる。


『や、やめろ…どろどろする……あぁやめ…たすけてくれ……どろどろ…っああっ…』


 ほとんど泣き声に近い声を発した後、男はばったりと倒れた。背中から倒れた男の顔は蒼白で、泡を吹いて気絶していた。


『やれやれ。一番厄介な男がやっと片付きました』

『!? だ、誰!?』


 至近距離で聞こえた平淡な声に、ランポウは体の重みも忘れて起き上がった。

 すると、気絶した男のすぐ傍に、唐突に靴が一足現れた。


『お迎えに参上致しました。ランポウ様』


 靴の次は足、胴、腕。下から昇るように、黒のスーツを着た細身の体が現れる。


『ここからは私が護衛をさせていただきます。私一人ですが、なに、心配には及びません』


 相手の全身が現れ、ランポウは脱力した。見覚えのある男だった。先ほどとは違う、安堵と共にそう思った。





『このアリギエリ、D・スペード様の部下の中では一、二を争う術士だと、自負しておりますゆえ』








 きちんと切り揃えられた髪型の、インテリ風の男は、きらりと光る眼鏡を指先でくいと押し上げた。